マスコミが絶対に伝えない 「原発ゼロ」の真実

  • 作者: 三橋 貴明
  • 出版社/メーカー: TAC出版
  • 発売日: 2014/07/03
  • メディア: 単行本


【マスコミが絶対に伝えない原発ゼロの真実/三橋貴明/14年7月初版】

原発に関する言論の流れを変えるかもしれない一冊。これまで反原発本を読んで脱原発すべきと思い、そのように書いてきましたが、この本でまたひっくり返りました。風見鶏のようです。お恥ずかしい^^

ぼくが触発されたのは、小出裕章/原発のウソ、小林よしのり/脱原発論です。武田邦彦の著作にも影響されました。もともと経済合理性のほうを重視するので、原発推進派だったのですが、反原発本を読み宗旨替えしてました。

この本を読んで気づいたのですが、反原発派の言う代替え案はちょっとプアというかファンタジーな部分がある。へヴィーインダストリーの分野は大きな技術革新は出にくいんですよね。

2015年になったらジェッターマルスが飛んだり、宇宙旅行してると子供のころ思ってましたが、そうなってない。


家電分野のミクロな部分の技術革新は早いんですが、大きなものは開発が難しいんでしょうね。実機テストとか莫大な費用がかかるし。

良書で300pぎっしりとアンコが詰まってます。すべて資料やデータで詳細な補足がしてある。各発電所にも出向き取材もしています。これに総論で反論するのは難しいと思う。地に足がつくというか、現実に引き戻される。

そりゃー2015年にジェッターマルスは飛ぶんだ~、だから原発ゼロで大丈夫!と言ってるほうがロマンはあるのですが。

以下にちょっと多いですが読書メモを。かなりはしょったメモなので、前後の文脈やデータが必要な場合は本書を読むことをおすすめします。FITの問題点や、放射線の人体影響など、読書メモを残してない重要部分もたくさんあります。裾野の広い産業なので、業界関係者は必読書だと思う。



<談合は悪か>
世界屈指の自然災害大国日本において、いかに「市場競争」と「企業の存続」を両立させるかという課題をつきつけられた日本人が、頭を悩ませ生まれた知恵が、「指名競争と談合の組合わせ」。

この知恵が邪魔で仕方がなかった勢力は、ベクテル社を筆頭とするアメリカのゼネコン企業。指名競争入札&談合のシステムを継続される限り、アメリカのゼネコンが日本の公共企業市場に参入することは困難だからだ。



<エネルギー自給率4%を再認識する>
エネルギー自給率4%台とは、日本が鉱物性燃料などの輸入をストップした場合、生活や経済活動の95%が不可能になるという話だ。家庭用電気製品は作動せず、室内に明かりも灯せない。公共交通機関は動かず、携帯電話をはじめとした通信機器も作動しない。パソコンも立ち上げられず、ネットも使えない。マンションから出ようにもエレベーターは動かない。信号機も作動せず街頭もつかない。

わずかに水道などのライフラインと政府関係と防衛関係にだけ電気が供給され、民間の医療サービスや工場における生産活動も不可能になる。

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<電力供給予備率3%とは>
3%の予備率とは、もはや後がない背水の陣的な状況。わずか一基の大型火力発電施設がトラブルを起こすと、その瞬間に予備率はゼロとなる(火力発電所は老朽化している)。

電気の供給(発電量)と需要は常に一致しなければ、周波数が乱れ、ユーザー側に悪影響が出る。たとえば2010年12月8日。中部電力四日市火力発電所の変電所設備が故障し、供給電力の電圧が「0.07秒」だけ低下した。

わずか0.07秒の電圧低下だったにも関わらず、東芝四日市工場のNANDフラッシュメモリーの生産ラインが停止し(100億円前後の減収)、コスモ石油の製油所が3時間にわたり停電した。トヨタ車体いなべ工場の塗装ロボットのデータが一部失われ、操業開始が1時間遅れた。その他、三重県、岐阜県の大口ユーザー146件に影響を及ぼした。



<カタールへの貿易赤字額3.6兆円に苦しむ日本国民>
原発を止めたわが国が、毎年外国に追加的に支払っている「油・ガス代」は3.6兆円。3.6兆円という金額は、東京―名古屋間のリニア建設費総額が5兆円であることを考えると巨額だ。5兆円を費やすだけで、東京―名古屋が40分で結ばれる。



<原発ゼロで蓄電池コストは110.6兆円>
再生可能エネルギー(風力、太陽光など)は、電力需要と関係なく発電するため、余剰となる電気を蓄電池で吸収しなければ、電力系統が維持できない。電力供給が過剰になることで周波数が乱れ、停電などを引き起こす可能性がある。

・原発は再稼働しない
・再生可能エネルギー(風力、太陽光など)を電力供給の35%に高める
・火力(LNG,石炭、石油)が50%の電力供給を担う。(※現状は90%)

上記のエネルギーミックスを実現した場合、再生可能エネルギーの「余剰電力の吸収」をNAS電池で賄った場合の必要コストは110.6兆円になる。非現実的。



<浜岡原発を太陽光発電で賄う場合の必要な土地>
浜岡原発3号、4号、5号機と同じ出力(289万Kwとして)を太陽光発電で得るには、57.9平方キロメートルという膨大な土地が必要になる。山手線の内側の面積(65平方キロメートル)に近い。これは太陽光発電の稼働率を30%で見積もった場合。現実の稼働率はせいぜい12%程度。

同様の電力を風力で得るには、山手線の内側の約10倍の土地が必要になる。詳細の計算は本書にて。



<割高な発電コスト>
エネルギー環境会議のコスト検証委員会の試算によると、各発電所の1kwh当たりの発電コストは以下。
・原子力:8.9円(福島第一事故の賠償金、処理費用について50年償却が前提)
・石炭火力:8.9~9.1円
・LNG火力:10.4~10.8円
※don注:調べてみると、天然ガス価格は上記算出時の2倍になっています。火力発電コストにおける燃料費の割合は60%(ヤフー知恵袋より)なので、ざくっと6円UPして16円ぐらいになってる可能性がある。



・石油火力:35.5~37.1円
・風力:9.9~17.3円
・大規模太陽光:30.1~45.8円



<原発コストはなぜ安いか>
エネルギー効率が極端に高い。100万kwの発電所を1年間運転するのに必要な燃料は、石炭が221万トン、石油は146万トン、天然ガス93万トンであるのに対し、濃縮ウランは21トン、ウラン235は0.63トンとまさに桁が違う。

原発のコストは燃料費ではなく、発電所の建設や運転費用が大半を占める。ウラン購入という燃料関係費用は、1.4円/kwhとコストの2割に過ぎない。だからこそ原子力発電は「準国産エネルギー」と呼ばれているのだ。



<電力自由化はコストアップとなる>
日本以外の主要国で電力自由化を推し進め、電力料金が値下がりしたという事例は1つもない。2012年経産省の調査では、電力自由化後(90年代から2000年代)の電力料金推移は以下の状況。
国名         家庭用上昇率     産業用上昇率
ドイツ         53%           15%
フランス        7%            20%
イタリア        40%           125%
イギリス        69%           48%
ニューヨーク     50%           27%
カリフォルニア    33%           51%
日本         △24%          △29%

電力自由化後に電力料金が下がったのは、ろくに自由化を進めてない(発送電分離をしてない)我が国だけである。



<電力の小売自由化や発送電分離の前にすべきこと>
電力料金を引き下げるには、短期的には
・原発を再稼働する
・調達会社を発足させ、LNG購入に際したグローバルな競争力を高める。(調達窓口の一本化によるバーゲニングパワーアップ)
この2つを実施すればよい。



<日本中が核のゴミで埋まるのか>
使用済み核燃料の数が日本で一番多い柏崎刈羽発電所ですら、その規模は10メートルx10メートルx12メートル程度に過ぎない。



<使用済み核燃料の行き先>
一定期間原発のプールで冷却したのち、使用済み核燃料を青森県六ケ所村の再処理工場に運び込む。そこでウランとプルトニウムを分離し、高レベル放射性廃棄物を抽出する。

分離された高レベル放射性廃棄物は、長期間にわたり安定した物質であるガラスと混ぜ合わせ、「ガラス固化体」となる。ガラス固化体は地上施設で30~50年貯蔵管理されたうえで、地層処分(地下300メートルより深い地層に埋める)される。これが最終処分だ。

2013年5月。六ヶ所村の再処理工場は「ガラス固化」のすべての試験を終了した。今後六ヶ所村の再処理工場では、日本全国の原発で貯蔵されている使用済み核燃料を、順次処理していく。

六ヶ所村の最大処理能力は年間800トンしかない。1万7000トンを超える使用済み核燃料をすべて再処理するには、最低でも20年かかる。したがって中間貯蔵する必要があり、その施設は青森県むつ市にある「リサイクル燃料備蓄センター」である。

全国の原発の使用済み核燃料の総貯蔵容量は約2万810トンしかない。現時点で各原発の貯蔵量は1万4340トンに達している。

我が国は「最終処分場」を未だに決定してない。北海道の幌延町には地層処分のための研究所がある。あくまで研究施設である。

著者の私見では、最終処分場は各地方自治体から立候補を募るのではなく、「科学的、地層学的にもっとも安全な地区」を日本政府が選定し、政治力で決定すべきであると。

深い地下にある岩盤では、地下水の動きが極めて遅い。そのためガラス固化体と化した高レベル放射性廃棄物の放射性物質は、たとえガラスを突き抜けたとしても、岩盤に浸み込み吸着されるため、地上に出てくるまで長い時間がかかる。再処理と地層処分という、現在の技術で使用済み核燃料の処理は可能なのだ。原発は「トイレのないマンション」ではない。



もうそろそろ魔女狩りをやめて、現実に目を向けるべきだと思う。金持ちや著名ミュージシャンは反原発でいいかもしれないけど、ふつうの企業やサラリーマンは電気代がアップするとコストアップしてとても困ります。




イーグルスで魔女のささやき♪
冒頭に約5分間のギターの掛け合いがあります。ドンフェルダー>ジョーウォルシュ>グレンフライ、の3人がいい感じで絡んでます。77年のヒューストンライブ。


1年以上たったのにツタヤレンタルが出ないんですよねぇ。買うしかないかな・・・




関連記事:
【脱原発論/小林よしのり/12年8月初版】
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2012-10-06

【原発のウソ/小出裕章/11年6月初版】
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2011-12-31

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