村上海賊の娘 上巻

  • 作者: 和田 竜
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/10/22
  • メディア: 単行本


【村上海賊の娘/和田竜/2013年10月初版】
これ、寝る前に読まないほうがいいです。止まらないので寝不足になります。上巻474p下巻499p。1時間に80pぐらいで読むと、合計12時間です。1pに書かれてる分量は半分から3分の2ほどなので、わりとスピーディに読めます。

それにしても本屋大賞は面白い。ここ3年は楽しみに読んでます。ただ毎年4月に発表されますが図書館の予約がすごい。半年待たされました(図書館の粋な計らいで上下巻セットでまわってきた)。


村上水軍と言えば、むかし因島の取引先を担当してたことがあって、数か月に一度は因島に通ってました。三原から高速船で30分ぐらい。船内には瀬戸の花嫁が流れ、島々は風光明媚です。行くと取引先の人と一緒によく飲みました。魚は最高に美味いし、島の人々は義理人情に厚く、みんな朗らかでやさしい。あの人たちに不義理したらあかんなぁと、社内でもよく言ってました。

島の人たちがよく言ってたのは、因島は美人が多い。海賊がいろんな所から美女を奪ってきたので、その血が混じって美女ばかりになった。東ちずるを見てみいと。たしかに飲み屋の娘さんも美人やったし、美人だらけだったような気もします。思い出が美化されてるのかもしれませんが^^

思い出と言えば、泊まると通ってた船員バーがありました。造船の島で修繕ドックもあったので、最盛期には世界の船員がたくさん来てたらしい。和風の店が多いので、パブのような船員バーはいつも大入りだったそうです。店には世界の船社グッズがおいてありました。

何回か通ったときに、当時世界最大の船社だったMAERSKのキャップをめざとく見つけて、「これ欲しいなぁ」というと、気前よく譲ってもらいました。なんでもそこのバーの奥さんは、デンマーク/コペンのMAERSK本社にも招待されたことがあるそうで、船員がいつもお世話になってるからと、すごい歓待をうけたそうです。

書きながらどっかにキャップがあったなと、ごそごそ探してみました。



懐かしい。。

ご存知の方も多いと思いますが、瀬戸内は海運と造船が盛んです。とくに瀬戸内の一杯船主はギリシャ船主と並んで世界の船価を動かしています。

造船の方はどうでしょうか。2014年の竣工量ベースは以下の状況です。


(日本の造船ランキング)
1.今治造船グループ 2,998,370トン
2.ジャパンマリンユナイテッド 2,616,446トン
3.大島造船所 1,295,272トン
4.名村造船所グループ 1,168,178トン
5.常石造船 731,264トン
6.新来島どっくグループ 692,351トン
7.三井造船 635,844トン
8.川崎重工業 562,449トン
9.三菱重工業 459,763トン
10.佐世保重工業 342,127トン

これを見てあることに気づかれた人は、相当にディープです。

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結局、村上水軍vs大阪方になっています。まず大阪方ですが、3位と4位の造船所は、サノヤスを加えて川筋三社と呼ばれてました。大阪の木津川沿いにかつて造船所があったからです。1位、5位、6位はもろに村上水軍勢力圏です。ちなみに2位は住重、IHI、日造、NKKの造船部門合併会社です。日立は川筋系で、IHIは呉や播磨をメインと考えれば、瀬戸内系でしょう。

彼ら水軍の魂は、時を超え、舞台を世界に変えて今でも競い合っています。ある意味、凄い事ですよね。


動画の下に内容に触れます。小説は予備知識なしで読むほうがいいので、読まれる予定の方はスルーを。
STYXでカム・セイル・アウェイ♪ さあ一緒に船出しよう♪


小説の舞台は、信長の大阪本願寺攻め(石山合戦)です。信長は腐敗した仏教勢力とぶつかってました。大阪本願寺、比叡山延暦寺、高野山。このうち要所にあった大阪本願寺、比叡山延暦寺は優先順位が高くて攻めている。本能寺の変がなければ高野山もいってたでしょう。

で、大阪本願寺攻め。本書では天王寺合戦から第一次木津川口海戦までを描いてます。
天王寺合戦wiki
第一次木津川口海戦wiki


歴史小説といえば、司馬さん以外はあんまり読んでないのですが、司馬さんは長いのが多い。大河小説です。わりと史実に近い。対して、こういう一点を切り取った歴史ものは、まだ余地が残されてるのかもしれません。大きな流れの史実は変えられないけど、細かく切り取るとファンタジーを書ける部分が多い。

本作では村上武吉の娘「村上景」が、石山合戦で獅子奮迅の働きをしたことになってる。ネットで調べてみると、もちろんそんな史実はありません。フィクションです。



この本を面白くしてるのは、「美の基準の違い」です。ヒロインの景は、嫁の貰い手のない悍婦(かんぷ=じゃじゃ馬女)で醜女(しこめ)です。ただし醜女とはいっても、ハーフのような顔立ちで、当時の美の基準からみると醜女であると。
瀬戸内では醜女かもしれないけど、南蛮人を見慣れた商都・堺では「えっらい べっぴん」と言われる。

それから海戦も面白い。詳しくは書きませんが、そんな戦法が木津川海戦で取られたのかと、3回ぐらい唸りました。冒険活劇には戦闘シーンがつきものですが、絶体絶命のときに「なるほど、その手があったか」と思わせれば、作者の勝ちです。

これだけ面白い作品だと、映画化するのは目に見えてますが、誰が村上景を演じるのか楽しみです。特に景と張り合う琴姫との、美の対比が鮮明であってほしい。景は当時の醜女「高い鼻、大きい目、長い首と手足、小さい頭」で、琴姫は当時の美人とされる「顔はのっぺり、目は細い、おちょぼ口、色白で太り気味」です。




さあ海を渡ってチャールストン湾に行こう♪
(黒人奴隷の受入れ湾)
アメリカにはジャングルもないし♪
食べ物にも不自由しない♪
トラもライオンも毒蛇もいない♪
楽しいところさ♪
さあ、アメリカへ向かって航海しよう♪

ランディ・ニューマンでセイル・アウェイ♪





(本屋大賞関連記事)
【海賊とよばれた男・上/百田尚樹/12年7月初版】
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2013-10-29

【舟を編む/三浦しをん/11年9月初版】
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2013-10-02

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