ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)

  • 作者: 七月 隆文
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫


【ぼくは明日、昨日のきみとデートする/七月隆文/14年8月初版】
きらいな言葉があります。「キモイ」です。
自分に向けて言われたことはないですが、この言葉を聞くと、ハッとします。
すべてを破壊するような言葉。言われたほうは全否定される。そういう印象を受けます。

日本では「万葉集」の時代には言霊信仰というのがありました。
言葉には霊力が宿っていて、発せられた言葉の内容を実現する力がある。
だから言挙げという行為が一番忌み嫌われた。安易に相手を全否定しないほうがいい。
ヤマトタケルノミコトが死ななければならなかったのは、言挙げしたからです。
いらんこというたらあかん。

「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」 100万部突破。
夏休みに読んだラノベ恋愛小説です。キモイって言わないでください。
おっさんがラノベ読んでもいいじゃないですか^^

恥ずかしいので、読んだことはだまってて、ボツ本にするつもりだったのですが、
あまりにもよかったので、おすすめします。これ、めったにない名作やね。切なさメガトン級。


▼広告▼





(小説の概要)
・京都の美大男子学生、南山高寿(福士蒼汰)の恋愛話。
・SF設定あり。美しい彼女、福寿愛美(小松菜奈)は別の世界からやってきた。
・41日間で彼女は別世界に戻る。それは読んでると話の途中でわかる。
・タイトルのように、こちらの世界と時間の流れが逆になってる。彼女はぼくの未来を知っている。
・さえない大学生のぼくに、高嶺の花子さんという、「わたしの沖田くん※」のような王道ラブコメ。
 (※80年代ヤンジャンの看板マンガ)
・作者は京都精華大の美術学部出身。絵も描くけど小説も書くという主人公は、願望的自叙伝か。
・ラノベ(ティーン向け童話)かと思って読むと、どの年代でも共感できる素晴らしい作品だった。
・文章はスカスカで読みやすい。






「刹那を大切に生きよ」と釈迦はいいます。いまこの瞬間を楽しみなさいと。
セミは土の中に7年もいて、たった10日間だけ地上に出てきて恋をする。
世界で5000万部売れた「マディソン郡の橋」は4日間の恋だった。ロミオとジュリエットは5日間。

そういう意味では、本書の41日間の恋というのは、十分な恋愛時間という気もする。
ひと夏の恋みたいなものか。ひと夏の恋、みなさんはご経験ありますか?
本書は5月の恋ですけどね。夏の京都は暑くてかなわん。




以下に気に入った場面を。


▼広告▼





彼女のことが浮かぶたび胸がくっとなって、ああつらい、と思う。
甘い痛みだなんて誰が言ったんだろう。




とても自然な入り方だった。
その空気感だけで、彼女の場に対する気遣いやコミュニケーション能力が伝わってくる。




これ、食べさせたいなあ。強く思った。このおいしいものを、福寿さんに食べさせたい。
そのときぼくは――はたと気づいた。何かにつけ彼女のことを考えている自分に。
面白い場所を目にしたら彼女に見せることを考え、
おいしいものを食べたら彼女にも食べさせたいと願っている。
どんな反応をするだろう。好きだろうか。喜んでくれるだろうか・・・・。
今までのように自分だけの「よかった」で終わらず、彼女と分かち合いたいと自然に望んでいる。

ああ――。人を好きになるって、こういうことなのか。
賑わう人通りの中で、ぼくは実感した。とても清らかな感情が胸を満たす。
このさき彼女との関係がどうなっても、ぼくはこんな心境があることを教えてくれた彼女に感謝するだろう。
そう思った。




キスしたい。と浮かんだ。共有された。
そこからはほんとうに星がひかれあうような当たり前の自然さで、
ぼくたちは首を傾け、唇を寄せて・・・合わせた。

拍子抜けするほど簡単にできたキスは、驚くくらいに気持ちよくて、全身に漣が広がっていくようで、
なんだろう、頭の奥に「この人だ」という感覚が前よりずっと強く光って・・・ぼくは感動した。
みんなそうなのだろうか。キスはこんなにすごくて、感動するものなんだろうか。
キスを終えて、ぼくたちははにかんでみつめあう。
そしてまた、ひかれあう。華奢な体を抱きしめる。




涙が溢れた。
凪いだ気持ちでいたはずなのに、愛美のやさしさや、あたたかさや、
ぼくをみつめる美しくて聡明な瞳を感じたとき、奥から真実がこみ上げてきた。

「・・・どうして愛美とは家族になれないんだろう・・・」
悲しみが。絶望が。ぼろぼろと溢れて落ちていく。愛美と家族になって、ずっと寄り添って生きていく。
そんな未来が、どうしてぼくたちにはないんだろう。
泣いたぼくを見る愛美のまなざしが引きつれ、熱く潤む。
「・・・ごめんね」
「なんで謝るんだよ・・・」
「うん・・でも・・ごめん・・」
「ぼくも・・こんなつもりじゃなかった、のに・・・」
穏やかな午後のバス停で、ぼくたちは手をつなぎながらひたすら泣いた。
時刻表から1分遅れでバスが来た。
今日が終わっていく。
最後の日が来てしまう。




いかがでしたでしょうか。
京都で大学生してる息子に薦めましたが、読みそうにない。
アマゾンで買って、送り付けようかな。


映画は、原作がいいので見に行きます。セカチューみたいに社会現象化しそうです。
福士蒼汰と小松菜奈。2016年12月17日より全国ロードショー。
あ、小説読んでからのほうがいいですよ。



(関連記事)
【シン・ゴジラの感想】⇒憲法9条改正案とリーダーシップ論
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2016-07-31

【スターウォーズ論】~スターウォーズ新作、今後2020年までの予定
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2016-02-02

映画『セッション』~デイミアン・チャゼル監督のインタビューが興味深い
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2015-05-02

古事記/池澤夏樹訳~あらすじざっくり
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2015-02-24



あ、そういえば、漣の読み方、
「はす」ちゃいまっせ。はすが広がったら、はすコラになってまう。「さざなみ」です。
またね♪

▼広告▼