最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

  • 作者: 二宮 敦人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


【最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常/二宮敦人/16年9月初版】

『藝大生はみんな、僕には天才に見える。しかし、そんな藝大生をして「あいつは天才だ」、
といわしめる藝大生も存在する。

音楽環境創造科の青柳呂武さんも、その一人だ。
「僕は、口笛をクラシック音楽に取り入れたいんです」

青柳さんは、2014年の「国際口笛大会」成人男性部門のグランドチャンピオン。
名実ともに口笛界の頂点だ。そしておそらくは最初で最後の「藝大に口笛で入った男」になるだろう』

これが世界一の口笛♪



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著者はエンタメ小説を書いてる作家さん。奥さんが藝大生だそうです。
はじめてのノンフィクション作品。取材は2014年12月から2016年2月にかけて行った。

本屋でベストセラーの上位にいたので、なんだ?と思って読んでみました。
読みやすいし面白い。東京藝大。倍率が凄くて「狭き門」ということはみんな知ってると思います。
宝塚みたいなものか。試験は実技がメイン。センター試験は3割しかとれなくても入れると。




『「旅行に行ったとき、大変だったのよね」
妻のお母さんが、腕組みしながら苦笑した。
「ルーブル美術館でね、本当に、全然動かなくなっちゃって」
ルーブル美術館の一角で、妻は全く動かなくなってしまったという。
「踊り場にある、あの彫像。「サモトラケのニケ」。あれをずっと見てて。
1時間くらい見てたかな、まだ見る?って聞いたら、見るっていうわけ。
じゃあもう、好きなだけ見なさいって」
なんと、妻はえんえん5時間以上も「サモトラケのニケ」だけを見つめ続けたという。
人が芸術に触れるとき、時間の流れは少し普段と変わってしまうようだ。

サモトラケのニケ





『ケースに向けられた山口さんの目は、
まるで自分の掌を眺めるようでもあり、大切な人を見つめるようでもあった。
「ヴァイオリンは、山口さんにとってはどんな存在なんでしょう?」
そう聞くと、山口さんはしばらく黙して俯いた(うつむいた)。
「・・・私、中学の頃いじめられていたんです」
ぽつりと、山口さんが言う。
「死ぬ間際まで追い詰められてました。そんな時、ヴァイオリンに集中することで乗り越えられたし・・
ヴァイオリンに集中していたら高校にも合格して、そこから藝大にも進んで・・・
道が開けていったんです。だからヴァイオリンは恩人ですね。命の恩人」』




『「津軽三味線の全国大会では4回、日本一を取らせていただきました。
私がやりたい音楽は、渋谷原宿系ポップを突き詰めた、
「ニッポンカワイイチューン」と自称してるもの。新しくジャンル化していきたいんです。
そのためにはおおもとをおろそかにして批判されるようではいけない、と思ってるんです。

「川嶋さんが藝大を目指したのは、どうしてなんでしょうか?」
「古典邦楽をちゃんと勉強しておきたかったんですよ。
藝大では、長唄三味線と関わりの深い唄や邦楽囃子も副専攻というかたちで学べるんです。
他の、例えば尺八や日舞もレッスンを受けられたり、その特性や歴史について教えてもらえます」』

これが日本一の津軽三味線♪


以下にその他の読書メモを。


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<卒業生の進路は?~藝大生の半分ぐらいは行方不明>

確かに藝大生は凄い。だけどそれって社会で役立つのだろうか?
卒業してから、食べていくことができるのだろうか・・・・。

平成27年の進路状況には、卒業生486名のうち「進路未定・他」が225名とある。
彼らは今、どうしているのだろう。

バイトをしながら作品制作を続けたり、いろんなパターンがあるようだが、詳細は不明だった。
卒業生486名のうち、いわゆる就職をした人数が48名。毎年1割にも満たない。
就職先は音校なら楽団、劇団、放送局、音楽事務所、自衛隊音楽隊など。
美校であれば広告代理店、デザイン会社、ゲーム制作会社など。
大学院や留学などの進学は全体の4割の168名。

学長曰く、
「何年かに1人、天才が出ればいい、他の人はその天才の礎。ここはそういう大学」

多くの藝大生が目指すのは、やはり作家だ。
作品を売って食べていける画家、工芸家、彫刻家、作曲家。
演奏で食べていける演奏者、指揮者・・・・。しかしそんな存在はほんの一握り。
何人もの人間がそこを目指し、何年かに一人の作家を生みだして、
残りはフリーターになってしまう。それが当たり前の世界。




<東京芸大/楽理科とはどんな学科か?>

楽理科とは音楽学を学ぶ学科。わかりやすくいうと「言葉を使って音楽を表現するところ」。
器楽科や声楽科が、音を使って音楽をしているのに対して、楽理科が使うのは「言葉」。

「コンサートのパンフレットに、解説文があるでしょ?ああいうのを書くのが、私たちなの。
音楽ってバックグランドがあるよね。この曲がいつ頃どこで作られたか。
当時の世相はどんな感じだったか。
戦争の時代に世を憂えた作曲が作ったとか、恋に破れた作曲家がその苦しみをぶつけたとか。
そういうことを知って聴くと、面白いでしょ」

「1、2年でまず音楽学の基礎を学びます。
大きく6つに分かれて、西洋音楽史、日本音楽史、東洋音楽史、音楽理論、音楽美学、音楽民俗学。

楽書購読という授業。
音楽文献、たとえば三味線音楽について書かれた、江戸時代の写本を、実際に読んだりする。

実技の授業。
実際に楽器を触り、演奏するのだが、その楽器の種類がとても豊富。
ガムラン、胡弓、中国琵琶、シタール・・・

音楽を音以外の形で、誰かに伝える架け橋の役目をする。
楽理科の学生は、どうやって「伝える」か、毎日考えている」





明日は家賃の期日♪
僕の名前では 小銭も稼げなかった
自分なりに成功しようと頑張ったけど
新しい職を探した方がいいかもしれない

僕は自分に問いかける♪
音楽家とは何なのだろう
気楽な人生でないことは いまの僕にはわかる
音楽家として生きるのは 簡単じゃない

僕はあえて険しい道を選んだ♪
なぜそうしたのか 後悔はしていない
昔は僕も チャンスを得ようと希望を持っていた
だけど 高望みをし過ぎたのかもしれない

そして僕は微笑み続ける♪
痛みを忘れるために 微笑んでいる
心で泣きながら


5年ほど前に一度貼りましたが。
シルバー、76年のヒット曲で、ミュージシャン♪ いつものように若干意訳気味。



アルバム1枚で解散してしまったシルバー。メンバーにはバーニーレドンの弟もいました。

ファースト(期間生産限定盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/07/27
  • メディア: CD




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