印象派で「近代」を読む―光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書 350)

  • 作者: 中野 京子
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/06/08
  • メディア: 新書


【印象派で「近代」を読む/中野京子/11年6月初版】

「怖い絵」のベストセラーで知られる中野京子(西洋文化史、ドイツ文学が専門の早稲田の講師)が、
印象派の絵を歴史的背景をもとに解説します。

たとえばドガのエトワール。

従来の絵の解説だとテクニック論なのですが、彼女の解説は面白い。
バレエを習うのは裕福な家の出身で、大変な努力をしてプリマ(エトワール)になったというのが現代の感覚。
しかし当時のバレリーナはオペラの添え物でしかなく、売春婦と同義であり、
プリマとして踊ってるのは実力ではなくパトロンの後押し。
左の黒い燕尾服はパトロン。さらにオペラ自体も高級娼婦とブルジョワ階級紳士との出会いの場。


たとえばドガのアブサンを飲む人。

手前にあるのは新聞で、朝から飲んでると言う設定。一夜をともに明かした客と娼婦と想像できる。
安くてアルコール度数が高くすぐ酔える、貧しい人たちの酒が、
当時イギリスではジン、フランスでは黄緑色のアブサン。
アルコール度数が70%で水を混ぜると白濁する。
またニガヨモギ他の香草エキスをまぜた薬草系リキュールで、
言わばアルコールと麻薬を混ぜたようなもの。

アル中とは比較にならない激烈な作用があり(幻視、虚脱感、精神障害)、
印象派ではロートレックとゴッホがアブサン中毒。
(20世紀初頭に製造販売が禁止され現在販売されてるのは、名前だけ同じの似て非なる酒)
そんな強いアブサンを朝から飲まずにおれない、人生を放擲した女性の姿を描いてる。



(なぜ印象派は隆盛したのか)
一言でいえば印象派のパトロンはアメリカです。
裕福になったアメリカは美術館など箱物をたくさん建てました。だけどモナリザは飾れません。
そこでフランスでは蔑まれていた、新興勢力の印象派の絵を大量に高値で購入しました。
その後フランスにも価値が逆輸入されて、現代の印象派人気につながります。

なぜ印象派は蔑まれてたのか。
フランス官展の審査員は従来顧客の王侯貴族や教会など一部エリートが好む絵を選定します。
神話や歴史を総動員して「読む」知的な絵です。
新興勢力の印象派は美を描写しただけなので、そういう知的な部分がありません。
海外から評価されるまで、そんな絵が価値あるものだと思わなかったのです。




もっと知りたいロートレック―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

  • 作者: 杉山 菜穂子
  • 出版社/メーカー: 東京美術
  • 発売日: 2011/06
  • メディア: 単行本






♪印象派では一番好きなロートレック。伯爵家に生まれながら身体障害者として父から疎んじられ、
しかしその財力をもって娼館や酒場に入り浸り、社会の底辺に共感した作品群を数多く残しています。
BGMはモーツアルトの交響曲41番ジュピターで。カールベーム/ウイーンフィル/1949年です。




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