さっさと不況を終わらせろ

  • 作者: ポール・クルーグマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/07/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


【さっさと不況を終わらせろ/ポールクルーグマン/12年7月初版】
サリンジャーのホールデンのような語り口の1冊です。
ノーベル経済学賞受賞者をポップな文体でよめるなんて。
一人称はもちろん「僕」です。

主張してることは一言で終わります。三橋貴明の経済政策です。
別に彼だけじゃなくてリチャードクー(野村総研)や、田村秀男(日経から産経記者)、
藤井聡(京大教授)、中野剛志(経産省)あたりが最近では目立っています。

むかしながらのケインズ的な財政出動をやろう。赤字国債を出して、大量の公共事業をやろう。
いままで行なわれている景気刺激策は小さすぎる。これまでの規模の数倍をドーンとやるべきだ。
ちゃんとGDPの需要と供給のギャップを見て、それを埋める規模のものを一気にやるべきだ。
そして中央銀行はそれを金融緩和で徹底的に支援すべきだ。
それに伴う財政破綻だの金利上昇だのは、悪しき固定為替制度の下にある、
ユーロ圏のスペインやイタリアのような、かわいそうな国以外は、まったく心配する必要はない。

もとは彼も財政出動には批判的で、
リチャードクーが日本の財政出動を強く訴えたときに反論のペーパーまで出しています。
ま、いまは宗旨替えしてるからいいんですが。


以下に読書メモを。


<大きな悲劇>
働きたいのに仕事が見つからない人は大いに苦しむ。それは所得がないからだけではなく、
自分の価値が低下したような気分になるからだ。大量の失業は大きな悲劇なのだ。



<宇宙人が攻めてきた>
前回の大恐慌を終わらせたのは戦争だった。
戦争の脅威が財政保守主義の声を黙らせて財政支出が急増した。
軍事支出は職をつくり失業率は11%もあったのが大幅に改善し、
世帯所得が上昇すると消費者支出も回復した。それであっさり不況は終わった。

いまなら宇宙人が攻めてきたというデマが何より好都合かもしれない。
そうすれば対エイリアン防衛支出が大量に生まれて、景気は一気に回復するだろう。



<銀行とは何か>
ぼくたちが知るような銀行ができたのは、金細工業の副業からだ。
金細工職人は原材料の価値が高いために、きわめて頑丈な泥棒よけの金庫を常備していた。
そのうち一部はその金庫の利用を貸し出すようになった。
黄金を持っていても安全なしまい場所のない人々はそれを金細工職人に預け、
いつでも好きなときに黄金を引き出せるような引換証を受け取った。

この時点で二つのことが起こった。
まず金細工職人たちはそんなに大量の黄金を金庫に常備しておく必要がないことに気がついた。
黄金を預けた人たちがみんな一斉に引き出しを要求する可能性は低いので、
黄金の大半を貸し出しても通常は安全だった。ごく一部だけを予備として手元においておけばいい。

第二に預けた黄金の引換証が通貨の一種として流通するようになった。
だれかに本物の金貨で支払いをするかわりに、
金細工職人に預けた金貨の一部の所有権を移転すればいい。
そうなるとその金貨に対応する紙切れが黄金と同じ価値を持つ。

銀行とは要するにそういうことだ。銀行預金者に必要なときはいつでも資金が取り出せるようにする。
そして資金の大半を長期投資によるリターン稼ぎに回す。たとえば事業融資や住宅ローンなんかだ。

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<銀行に関する規制>
銀行が怖いものは、取り付け騒ぎで預金者が一斉に現金を引き出すことだ。
これの対策は二つあった。一つは銀行がみずからをしっかりした存在に見せることだ。
だからこそ銀行の建物はしばしば巨大な大理石だ。もうひとつは、最後の貸し手の存在だ。
パニックに見舞われた銀行に資金を提供し、預金者がちゃんと預金を取り戻せることを保証して、
パニックを落ち着かせる機関を作った。
さらに1933年のグラススティーガル法では預金保険公社を成立し、預金者が損失を負わないようにした。

もう一方でグラススティーガル法は、銀行が手を出せるリスクを制限した。
銀行は労せず預金者から大金を調達し、どうせ政府が保証してくれるのだからと、
ハイリスクハイリターンの投資につぎ込み、勝てば大儲け、
負ければ納税者負担と決め込むことが可能になってしまうからだ。

そういうわけで銀行は、預金者のカネで博打を打たないように各種の規制を課せられた。
預金を集める銀行はすべて、融資だけしかできないよう規制された。
預金者のカネを使って株式市場や商品市場で投機をしてはいけないし、
そうした投機活動を同じ機関の屋根の下で行なうことも禁じられた。

その後の規制緩和で徐々に規制は撤廃され、1999年には預金銀行と投資銀行の区別はなくなった。

p.s.その後の惨状は皆さんのご存知のとおり。



<死の取引>
日本の10年国債金利は1%ほどで、日本の金利上昇に賭けた投資家は大損ばかりしている。
そのうち日本国債を空売りするのは「死の取引」とまで言われるようになった。



<悲しいアイロニー(皮肉)>
FRB議長のバーナンキは、2000年にバーナンキ教授が日銀を批判した言葉が、
自分にブーメランとして返ってきている。なぜ臆病なのか。
共和党はQE(量的緩和)で大騒ぎして、バーナンキが「ドルを毀損した」と批判した。
テキサス州知事なんかは、バーナンキがテキサスに来るなら、
「何か手荒なことがおこるぞ」とまで言い放った。

p.s.個人的にはマネタリーベースが07年との比較でドルは3倍超え、
円は1.3倍という状況からすると、臆病でなく十分にヘリコプターベンだと思いますが^^;



<大統領選後の経済政策>
オバマが勝てば、雇用創出に向けたケインズ的な動きに出る。
ロムニーが勝てば共和党の正統教義に従い、新自由主義的な動きとなり、
雇用創出とか財政出動はミニマイズされる。

ただし彼の主任経済顧問二人、ハーバード大のグレゴリーマンキューとコロンビア大のグレンハバードは、
熱心な共和党員だがマクロ経済の見方はかなりケインズ的だ。

マンキューのインフレターゲットを大きく引き上げるべきとの主張は、
共和党の大半が大嫌いなもので、党内の大反発を食らい、その後マンキューは黙ってしまった。

そうはいってもロムニーの側近が現実的なものの見方をしていると言うのは、少しの希望くらいは持てる。

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不況の労働者の歌を歌わせれば、スプリングスティーンは天下一品です。


銀行家は肥え太り、労働者は痩せ細る♪
すべて過去にも起きたこと 
先にもきっとまた同じことが起こるだろう
きっとまた繰り返される 

連中は他人の人生を賭ける
財産と人の命を犠牲にしつつもまた明日は来る
もしも銃を持っていたら
俺はあの下衆野郎たちを探し出し迷わず撃ってしまう♪


クルーグマン自身が、不況が長引く中よく聴くようになった歌ということで本著のなかであげていた1曲です。

Peter Gabriel & Kate Bush - Don't give up

Moved on to another town
他の街に移ってみた
Tried hard to settle down
なんとかがんばってみた
For every job, so many men
でもどんな仕事にも人は足りている
So many men no-one needs
人手は余っているんだ

Don’t give up
あきらめないで
‘cause you have friends
友達がいるのだから
Dont give up
あきらめないで
You’re not the only one
つらいのはあなただけではないわ





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