世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

  • 作者: 入山 章栄
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2012/11/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


【世界の経営学者はいま何を考えているのか/入山章栄/12年11月初版】
経営学って岡目八目だと思います。リーマンショック前までは景気も良かったので、会社でもいろんな研修がありました。人材教育会社の講義を聴いたり、有名大学の教授を呼んだり、企画部あたりが趣味でやってたような感じはありましたが、たくさんの経営学の話が聴けました。

だいたい課題をグループ討議なんかして、模造紙で発表。先生方が寸評するのですが、いい言葉でうまく表現はしてくれるんですが、評論家なんです。責任がないので好きなことを言う。だったらあなたがやってみればとも言えないし。

経営学に詳しいわけではないですが、前にヘンリーミンツバーグの「戦略サファリ」を読んで感じたことは、やってみないとわからない。ということでした。ホンダの世界の自動車産業への参入は、経営戦略論的にはあきらかに間違いです。1977年の米国のMBA試験でも、ホンダは世界の自動車産業に参入するべきと回答すると、落第点となったようです。

・既に市場は飽和状態であった。
・優れた競争相手が、すでに日本、米国、欧州にいた。
・ホンダは、自動車に関する経験が皆無に等しかった。
・ホンダは、自動車の流通チャネルを持っていなかった。

グーグルだって最初から広告のビジネスモデルを事業計画に取り入れてませんでした。彼らは検索技術をインターネットポータルなどに供与する商売を考えていたのです。やってみないとわからない。佐治敬三じゃないけど「やってみなはれ」なんでしょうね。こういう考え方を「学習主義」と言うようです。一方の「計画主義」はPDCAサイクルを繰り返すことです。だけど不確実性の時代には、綿密な計画を事前に立てるのは至難の業です。計画そのものが立てられず、事業が始まらない。

最近の経営学では計画主義と学習主義の中庸である「リアルオプション」という事業計画法が注目されてるようです。「段階的な投資」です。当たり前の話なんですが…。


以下に読書メモを。








<アメリカの経営学者はドラッカーを読まない>
ドラッカーの言葉は名言ではあっても科学ではない。それらの言葉はけっして社会科学的な意味で理論的に構築されたものではなく、また科学的な手法で検証されたものではない。米国の経営学者は、自分の経験や思いつきだけで、たとえそれが名言のように聞こえても、それをビジネススクールの教育に反映させることをよしとしない。それらは科学的に構築・検証されたものではないので、「真理に近くない」可能性が大いにあるからだ。



<日本の経営学と海外の経営学の違い>
経営学とはケーススタディではない。
欧米型:理論仮説をたて、それを統計的な手法で検証する。演繹的なアプローチ
日本型:一社か数社をたんねんに観察するケーススタディ。帰納的なアプローチ
    ケーススタディから得られた定性的な情報から、経営の法則を引き出す。
(演繹と帰納の理解のための参考サイト:http://fk-plaza.jp/Solution/solu_suiron.htm

経営戦略論の代表的な学術誌「ストラテジック・マネジメント・ジャーナル」に2011年に掲載された57本の実証研究のうち、52本は統計分析。いわゆるケーススタディを用いた論文は5本。

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<そもそも経営学とは>
アメリカのビジネススクールの学科はおおよそ以下。
・会計学
・ビジネス経済学と公共政策
・ファイナンス
・ヘルスケア経営
・法学とビジネス倫理
・経営学
・マーケティング
・オペレーションと情報経営
・不動産学
・統計学

経営学はさらに細分化される。

まずおおまかにマクロとミクロに分かれる。ミクロ分野は、企業内部の組織設計や人間関係を分析する研究領域で、「組織行動論」と呼ばれる。たとえば企業内の人事制度、上司部下の関係、企業内の効率的なグループ編成、リーダーシップのあり方が研究トピック。

マクロ分野は、企業を一つの単位としてとらえ、その行動や他企業との競争関係、協調関係、組織構造のあり方を分析する分野。その代表は「経営戦略論」。経営戦略論とは、企業がライバル企業との競争の中でどのような行動をとれば、優れたパフォーマンスを実現できるか考える学問。マイケルポーターがこの分野を確立した第一人者。ファイブフォースやバリューチェーンは企業研修等でも有名。

さらにこれらの分野を横断する研究分野がある。多国籍企業を研究する国際経営論、ベンチャーや起業家を研究するアントレプレナーシップ論、イノベーションや製品開発を分析する技術経営論など。



<マイケルポーターの戦略>
ポーターの競争戦略とは「どうやって競合他社との競争を避けるか」「競争しない戦略」のことである。なるべく競争の少ない産業を選び、ライバルよりもユニークなポジションをとれば、他社とガチンコで競争しないですむから、結果として安定した収益を得られる。すなわち持続的な競争優位が得られるという主張。もう少し詳しく。

そもそも企業の究極の目的とは何か。競争戦略論では「持続的な競争優位」を獲得する事とされている。ポイントは持続的なというところ。持続的な競争優位を実現するために企業はどうすべきか。それを説明するうえで代表的なのがポーターの考え。経営学では「structure構造、conduct遂行、performance業績」の頭文字をとってSCPパラダイムと呼ばれる。

SCPを一言で表せば「ポジショニング」につきる。企業は優れたポジショニングをとることで、持続的な競争優位を獲得できるということ。ポジショニングには2種類ある。1つは事業を行なう上で適切な産業を選ぶという意味でのポジショニング。SCPでは「企業のあいだの競合度が低く、新規参入が難しく、価格競争が起きにくい産業が望ましい」とされる。とはいえ急に産業は変えられない。

2つめは、今自社がいる産業の中でできるだけユニークなポジションをとりなさい、という。業界内で競合他社と異なるユニークな商品やサービスを提供することができれば、それだけライバルとの直接の競争を避けられる。したがってポーターのSCPでは、いわゆる「差別化戦略」が重視される。



<持続的な競争優位なるものが本当に存在するのか>
ウィギンズとルフエリの衝撃的論文。2人は1972年から1997年までの米国の40産業にわたる6772社の投資利益率などの時系列データを用いて、企業が10年続けて同じ業界のライバルよりも高い業績を残した場合を「持続的な競争優位」をもっているとみなした。そしてそのような企業はどのくらいあるものか、分析した。結果は以下の3点。

①アメリカでは「持続的な競争優位」を実現する企業はたしかに存在するが、その数はすべてのうちの 2~5%にすぎない。

②近年になればなるほど、企業が競争優位を実現できる期間は短くなっている。

③他方でいったん競争優位を失って、ふたたび競争優位を獲得する企業が増加している。すなわち現在 の優れた企業とは、長い間安定して競争優位を保っているのではなく、一時的な優位をくさりのよう につないで、結果として長期的に高い業績を得ているようにみえている。



<トランザクティブメモリー>
組織の記憶力に重要なことは、組織全体が何を覚えているかではなく、組織の各メンバーが他メンバーの「誰が何を知っているか」を知っておくことである。これは近年の組織学習研究においてきわめて重要な考え方となっている。


ランディニューマンでthe world isn't fair #59126; 胸を打つ歌です。

カールマルクス少年はすべてを読んだ♪
搾取がなく 公平な世界を築くために♪

だけど金持ちはさらに金持ちになり♪
貧しいものはさらに貧しくなる♪

あぁカール 世界はフェアじゃない♪
これからもそうだろう♪




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