外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々

  • 作者: 藤沢 数希
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2012/09/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


【外資系金融の終わり/藤沢数希/12年9月初版】
金融機関の構造がすっきり頭に入る一冊です。外資系金融機関でトレーディングに従事しながら、匿名で人気ブログをやってる著者です。図書館でも予約が多くて、今まで待たされました。

世界は日本の失われた10年を再現しつつありますが、金融機関の雇用慣習も世界が日本に追いついてきたそうです。多額のボーナスは分割払いになった(笑)。新人の報酬は据え置かれ、年功序列的な賃金体系になってきたと。

多額のボーナスを受け取るトレーダーの報酬体系が、過剰なギャンブルを誘発したということで、監督官庁が「トレーダーのインセンティブを、金融機関の長期的な利益と一致させる」ことを要請したようです。

また規制緩和が危機の大きな原因だったとして、規制を厳しくする動きに出ています。ボルカールールとバーゼルⅢです。ボルカールールは銀行が本来の貸出業務以外でリスクテイクするのを、基本的に禁止しようという規制改革。バーゼルⅢは自己資本比率を大幅に厳しくすると。

著者によると、この1~2年の間に、外資系金融機関の多くで社内ヘッジファンドが縮小されたり閉鎖されたりし、トレーディングはポジションを小さくするよう指示されてると。

これまで金融機関は、大きいほうが有利でした。カネは安く調達できるし、「大きすぎてつぶせない」という政府保証までつく。目に見えない補助金です。ただ今後はバーゼルⅢなどで大きな金融機関は、自己資本比率の引き上げや、自己資本の中身を良くすることを求められます。これは金融機関の「原材料費」を引き上げることになる。この資本コストの上昇分が、目に見えない補助金よりも大きければ、金融機関は大きすぎると損になる。

ちなみに今回の金融危機の嵐で、多くのヘッジファンドがつぶれました。ヘッジファンドに投資していた富裕層のカネとともに、多くのヘッジファンドマネージャーが消え去った。しかしつぶれるときに公的資金を注入されたり、中央銀行からカネを貸してもらったヘッジファンドはひとつもなかったと。

巨大な金融コングロマリットがギャンブルをする権利を取り上げ、その役割を潰れてもいいヘッジファンド業界が担う時かもしれないと。

金融業界の事はわかってなかったので、以下にまとめてみました。








(保険業)
宝くじと同じモデル。加入者から保険料を集めて当たりくじを引いた加入者に一定の賞金を払う。保険会社は集めた保険料をそのまま現金で置いておくのではなく、少しでも増やそうと運用する。このとき運用に失敗すると、2008年の大和生命のようにつぶれてしまう。


(証券会社)
保険会社なんかが運用という名前のギャンブルをするために、カジノを運営しているのが証券会社である。もちろん客は保険会社だけでなく、年金基金や投信などを運用する資産運用会社、銀行、ヘッジファンドなども証券会社の大事な客である。客側の金融機関としては、取引所の会員権を買って、証券会社として業務を行なうために許認可を取得するよりも、証券会社に手数料を払って金融商品を売買するほうがコストが安いと判断している。

彼らは株や債権や、さまざまなデリバティブ商品を証券会社と取引し、証券会社はそのたびにショバ代を取る。これが証券会社の儲け。しかし現実は証券会社は値下げ合戦で儲からない仲介業は適当にやって、自らがギャンブルをしている。


(投資銀行)
基本的に投資銀行=証券会社だ。そして証券会社≠銀行だ。銀行は預金を集めたり、中央銀行から直接カネを借りたりすることができるが、証券会社はできない。

しかし今では大手投資銀行は、ほぼすべて銀行業のライセンスを取得してしまって、純粋な証券会社は日本の野村證券と大和証券ぐらいになってしまった。

結局アメリカにはゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、シティ、バンカメ、JPモルガンの5つの国際的に業務を行なう投資銀行が残った。


(投資銀行の組織)
投資銀行部門とマーケット部門に分かれる。

投資銀行部門:プライマリーマーケット、企業が直接資金調達をする市場の仕事。株式を発行したり、債権を発行して資金調達をする。M&Aなどの企業買収もプライマリー部門の仕事だ。1日18時間働く残酷な職場。顧客にプレゼン資料を持っていき、そこでライバルに打ち勝たないといけない。プレゼン資料のクオリティを上げるのは際限のない仕事だ。

マーケット部門:セカンダリーマーケット、自由に売買される市場のこと。そこで売買されても、その株を発行した企業には1円も入らない。デリバティブ商品の開発や売買するのもマーケット部門の仕事である。投資銀行のなかで、会社の金(資本金+レバリッジ)でリスクをとってる人たちを、プロップトレーダーという。時にしこたま高い給料をもらうのはプロップトレーダーだ。エージェンシートレーダーは、バイサイド(客側)のトレーダーの茶飲み友だちみたいなもので、給料はふつうのサラリーマン並みでせいぜい年収2000万円ほど。ちなみにバイサイドのトレーダーはバイサイドのファンドマネージャーの奴隷で、ファンドマネージャーの言われた通りに証券会社に電話するのが仕事だ。


(資産運用会社)
野村アセットのような大手資産運用会社は、兆円単位の資産を運用している。10兆円運用していたら、1%相場が動くだけで1000億円も損益が出る。ところが彼らは羊だ。そういった資産運用会社の顧客は、年金を運用しなければならない事業会社だったりするのだが、こういった相場のリスクを取るのはあくまで資産運用会社の顧客であり(つまり証券会社の顧客の顧客)、資産運用会社は預かり資産の残高の1%とか2%のフィーを受け取るだけだからだ。だから地道な営業活動をして、ちょっとずつ運用資産増やしていく、という農耕民族的な性質が備わっている。

(ヘッジファンド)
ヘッジファンドの多くが、運用で儲けた利益の20%をもらうというような契約を、顧客としている。通常はマネジメントフィーが2%、成功報酬が20%である。ヘッジファンドは限られた投資家から私募で資金を集めるファンドで、不特定多数の投資家から資金を集める大手資産運用会社とちがい、多くの規制を受けなかったり、さまざまな報告義務が免除されている。


その他の読書メモを。


<オリンパスのTOBASHI>
飛ばしという日本語は、津波や神風と同様に英語にもなっている。最近ではオリンパスが1999年に財テクの失敗で膨らんだ損失の約1000億円を飛ばして、オリンパスの経営陣が代々ちょっとずつバレないように毎年返済していたのだが、これを2011年に社長に就任したイギリス人のマイケルウッドフォード氏が、空気を読まずにマスコミにガンガンリークして、前社長らの逮捕者まで出した。


<ギャンブル>
ギャンブルは愚か者に課せられた税金


<日本の銀行の簡単な仕事>
三菱UFJはすでに日本国債の保有残高が約49兆円に達し、国内企業への貸出残高の約46兆円を上回っている。他の邦銀も状況は似ており、みずほが約34兆円、三井住友が約28兆円の日本国債を保有している。日本の銀行は日本国債をロングすることが本業になってきた。


<アメリカ人の雇用は回復するのか>
米国の一部の世界的な企業はたしかに強い。しかし雇用には結びつかない。アップルが6万人、グーグルが3万人、フェイスブックが2000人、ツイッターは200人。これが世界全体での従業員数だ。一方でトヨタやパナソニックの従業員数はそれぞれ30万人以上もいる。


<世界の1人あたりの医療費と平均寿命との関係>
     平均寿命   1人あたり医療支出  GDPに占める医療費の割合
アメリカ 79歳     8230ドル/年      18%
ドイツ   81歳     4340         12%
フランス 81歳     3970         12%
イギリス 81歳     3430         10%
日本   83歳     3030          7%
韓国   81歳     2040          7%

金融と医療はアメリカの二大産業で、それぞれGDPの2割、あわせて4割を占める。アメリカの医療は世界最先端だが、医療費は高い。日本の3倍に近い。


ギャンブラーの世界は#59126;
苦しみがある
ほんとの愛だけが癒せる

暗闇のどん底に光をともし
救ってほしい♪

(ちょっと意訳しすぎかな^^;)

ダンフォーゲルバーグの美曲で、「there's a place in the world for a gambler」♪