コーポレートブランディング格闘記―B to Bブランディングの実践ストーリー

  • 作者: 石井 淳蔵
  • 出版社/メーカー: 日経広告研究所
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本


【コーポレートブランディング格闘記/石井淳蔵、横田浩一/07年3月初版】
日経新聞の「BtoBブランド研究会」が2年以上研究を重ねて発行した本。慶応、神戸大、早稲田、明治の教授や各企業の担当者が参加、報告書をまとめる段階で「論文より小説風のストーリーのほうが面白い」と小説仕立てに。舞台は産業用部品を生産する架空の中堅エレクトロニクス企業の吉村電工。主人公は経営企画部のタカシくん。新社長から「ブランド戦略を立案せよ」と企画部長経由で担当するよう指示を受け、その構築に格闘します。

ブランディングには3つのタイプがあります。コーポレートブランド、商品シリーズのブランド、技術ブランドです。本書ではコーポレートブランドを一から作り上げる過程が描かれています。ブランドを勉強するための本ではなく、実践するための本です。何かの参考になるかもしれないので、全体を流れに沿って要約しました。少し長いですが。

1.ブランド戦略の開始
社長から新体制の経営方針の中にブランド戦略を組み込むよう指示がある。若手中心で各部門のキーマンを選別し社内にプロジェクトチームを発足。社長の具体的なイメージはわからない。部長から渡されたペーパーには目標として以下が書かれていた。

・企業価値向上
・ROE向上
・ブランド戦略
・選択と集中
・働きがいのある会社
・新規事業へのチャレンジ
ビジネススクールで習ったブランド戦略は、マーケティング戦略でちょっと触れただけ。本屋にはブランド戦略ブームで500冊のブランド関連本が並ぶ。範囲は広く、広告、人事、採用、IR、かなりの分野が絡む。


2.プロジェクトチームの編成とそれぞれのブランド意識
広報担当、企画部、広告宣伝担当、生産管理、人事、営業、経理IR担当でプロジェクトチームを編成。サポートは広告会社、コンサル。ブランド戦略不要論が飛び出すキックオフ会議となる。


3.情報収集
コンサルに相談。一般的なブランド展開は、ブランドステートメントやビジョンを作る。次に社内外へ向けたコミュニケーション。そしてブランドイメージやパーセプション。自社のブランドイメージの現状把握も大切。外部調査を活用&社内従業員の意識調査。広告会社に相談し他社の実例を確認。ブランドづくりの効果としては主に次の5つ。

・知名効果:リクルート&IR。
・社内ブーメラン効果:世間の知名度が上がり、社内に跳ね返る。
・社内での価値統一効果:社員自らが自己規制。
・取引コストの削減効果:営業やサービスにおいて、これまで以上に顧客と関係を結びやすくなる。
・市場価値を創造する:顧客が新たな選択肢をつくってくれる。


4.自社ブランドの現状を把握する
大手広告会社の営業と面談。吉村電工のブランディングの現状について、客観的評価を報告してもらう。担当者は「日経イメージ調査」を中心に報告。具体的なブランディングの進め方をレクチャーしてもらう。
・まずコアコンピタンスを表現したステートメントをつくる
・それをあらゆるステークホルダーとコミュニケーションしていく。

社内向け:ブランドブック配布、社員研修
社外向け:広告展開。企業広告の他に、商品広告の中にもタグを入れる。社外に向け発信する情報全てに、ステートメントやデザインを入れ、企業の考え方を伝達していく。コンタクトポイントごとにコミュニケーションの仕方を整理しておく。顧客に対しては営業マンとウェブのホームページ。マス広告。株主に対してはアニュアルレポートやCSR報告書。社員に対しては社内報やウェブのイントラネット。


5.ブランディングの必要性をチーム内で確認
2回目のブランドプロジェクト会議、前回はネガティブ意見が多かったが、少し前向きに進展。従業員の意識調査をすることになる。


6.当社のブランドビジョンについて検討しよう
アンケートの回答率は本社で8割、連結対象グループで3割。質問内容は、
・あなたは会社に対して忠誠心が高いですか?
・一流イメージか?
・この会社で働き続けたい? etc


7.ブランドビジョンについて考えよう
前回の会議で、ブランドビジョンを表すステートメントの検討が課題となり、メンバーそれぞれが実施した社内各セクションの意識調査の結果を持ち寄り議論。社員調査と日経イメージ調査との比較を行なう。


8.当社らしいブランドビジョンとは
プロジェクトチーム内で議論した内容を資料としてまとめ、それをもとに広告会社よりロゴデザインやステートメントを提案してもらう。プレゼンシートにまとめられたブランドロゴやステートメントをチーム内で検討する。
A案:イノベーション&トラストカンパニー
B案:あなたの夢を技術でサポート

(BtoBカンパニーのステートメント参考例)
富士ゼロックス:The Document Company
島津製作所:Access to your success
キャノン:make it possible with canon
等々 この本に載ってた9割がなぜか英語。


9.ブランドビジョンについて、社長との議論
広告会社からはさらに複数の提案があったが、イノベーション&トラストカンパニーをチーム内で推す事と決め、社長に報告。今後20年、30年と会社の精神的な支柱となっていくビジョン。悪くは無いがピンとこないと、再検討を言われる。


10.20年後の会社を支えるステートメントとは
チームで再度議論を行い、もう一度同じ案で行くこととする。


11.社員とブランドを共有するために
ステートメントが決まり、新しいロゴが広告会社から提案される。ブランドブックを全社員に配布。ロゴの使用のレギュレーションや、最低限の行動基準を記した解説冊子、手帳にも挟めるミニ冊子も用意する。

ブランディング活動に関する経費について、通常の広告宣伝費とはケタが違い、経理部長が説明を求めてくる。ロゴ作成やステートメント、それにまつわる広告の作成費、新聞広告費等。経理部長は適正価格を知りたいと。ケースバイケースで適正価格は不明であると説明すると、他社の広告宣伝費だけでもわからないかと。クボタで年間46億円、富士ゼロックスで年間42億円。


12.ブランドによる社内コミュニケーション
さまざまな場面で一人ひとりが会社を代表している。すべてのセクションに対して研修を行なう。ブランドブックを渡しただけではみんな読んでない。講師はプロジェクトメンバー。ビデオを作成し効果的に使用する。


13.社外へ向けてのブランディング発信
いよいよ広告展開。最初は主要駅周辺の看板および新聞、雑誌。プレゼンは2社の広告会社へ依頼。オリエントシートには、
・目的:知名度、好感度向上とともに、弊社へのロイヤリティ向上
・対象:ビジネスマン、学生、株主

決定後は、広告展開のための撮影やコピーの検討、媒体の選別。あらゆる印刷物へステートメントとロゴを掲載するため、すべてのセクションにレギュレーションを伝え、ホームページのリニューアル、新聞、雑誌社との打ち合わせ等、事務局の二人では手が回らなくなり、応援を頼む。


14.ブランド発信によって何が変わったのか確認しよう
はじめて新聞に一面広告が出る日、落ち着かない。新聞社のインターネット調査でも好意的な回答が多い。営業部には広告やるほど儲かってるのか、と取引先からイヤミの電話もある。その後取引先企業を紹介するコラボレーション広告を作ることとし、顧客の中から選別する。営業部はコラボレーション広告の調整窓口となり、普段会えない顧客企業の重役などとも会え、人脈が広がる。

その後営業部には、様々な企業から「こんな部品ができないだろうか」「新しい企画の相談に乗って欲しい」「他社で調達していたが、同じものを作って欲しい」と問い合わせが入る。掲載広告のパネルをつくりコラボレーション広告をした顧客へ持参すると、会議室に飾られる。顧客の会議室に飾られるのは凄い効果。幹部も会議室を使うので、今後は稟議書に簡単にNoと言わなくなると、営業部は大喜び。


15.CSRとブランディングの密接な関係
社長からの指示で、プロジェクトメンバーにCSR担当者を加える。小学生へのものづくり教育を中心に、地域社会への貢献を具体的に取り組み、それを広告展開する。


16.次世代に続くブランドの循環効果とは
インターナル効果。若手社員が新技術を使ってロボットを作りたいと言い出した。技術本部では3千万円の予算は難しいけど、ブランド予算で捻出して欲しいと。ブランドが新しいものを産み出す好循環となりはじめた。


その他の読書メモを。


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<BtoB企業は人が命>
消費財企業の場合直接顧客と接するのは、パッケージやTVCMなど。他方BtoB企業の接点は人。営業だけでなくサービス担当者など、顧客と出会う機会が少なからずある。そのため一人ひとりが、会社が提供する価値を理解していることが大切。BtoB企業において、ブランド推進運動の形で、会社内部に向けたマーケティングを熱心にやるケースが多いのはそのため。



<製品ではなく、顧客に提供する価値で考える>
「ドリルがいくら売れたにしろ、お客さんが欲しいのはドリルではない。お客さんが本当に欲しいのは、そのドリルで開けた穴なのだ」



<事業を構成する三つの軸で考える>WWHで考える
自分たちは①誰に②どのような価値を③どのような技術を用いて、提供するのか。

IBM:①ビジネスの事業所に向けて②問題解決という価値を③コンサルティング・デリバリー・メンテナンスの複合技術を用いて提供する。

スカンジナビア航空:①ビジネス客に対して②飛行機発着の正確な時間を③さまざまな方法(サービス体系の変革、ジャンボ機をやめて都市間直行便の増発、ビジネス客に合わせた機内設計の変更)を用いて提供した。




ビリージョエルでスカンジナビアン・スカイズ#59126;



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