【ホテルカリフォルニアにようこそ/松浦肇/11月25日産経新聞コラムより】

ごくたまに、衝撃的な作品や記事に出会うことがあります。だいたいは頭の中で2つの物事が繋がるときです。とくに古典の事象が現代に当てはまるパターンを提示されると、カッコイイと感じます。

ロックンロールがロックになる瞬間です。#59126;

それは狙ってできるもんじゃなく、適菜収なんかよくスベってます。

今回は11月25日の「ホテルカリフォルニアにようこそ」という新聞記事です。へ?今頃マークシャピロの傑作イーグルス本の紹介?そう思って読んでみると立派な経済記事でした。電車の中で新聞読みながら思わず唸ってしまった。何で自分は気づかなかったんだろうと。前置きはこのくらいに以下に全文を。


『イーグルスの名曲「ホテル・カリフォルニア」は、1977年にヒットしたロック音楽である。哀愁ただようメロディーをバックに、ボーカルがかすれ声で歌う。

「今の経済環境そのものだよ」。米投資会社フィデリティの著名運用者、ユリアン・ティマー氏に言われて、同曲を久々に聞いてみたところ、デジャビュ(既視感)に襲われた。2008年に起きた金融危機以降の米国経済を想起させる暗喩が、歌詞に列挙されているではないか。

「ホテル・カリフォルニア」は、暗がりの砂漠で主人公の「僕」が車を運転している場面から始まる。大麻の甘い香りが車中に立ち込めるなか、「僕」はチカチカ光るホテルの薄明かりを遠くに見つける。

「僕の頭はどんどん重くなり、視界もぼやけてきた。何とか一晩泊まらなきゃ」
「僕」とは、金融政策の司令塔である米連邦準備制度理事会(FRB)を指す。米国が「大麻」(不動産バブル)漬けとなって限界にきていたところ、「僕」は体を休めるホテルを何とか見つけた。

ホテルに入ると、神秘的な女性が迎えてくれ、ろうそくを照らして回廊を案内してくれる。奥からは歌声が響き、「僕」は「ここは天国だろうか、地獄だろうか」と思ってしまう。「歌声」はこう奏でる。「ホテル・カリフォルニアにようこそ。何てすばらしいところなんだ」

「ホテル・カリフォルニア」とは、金利をゼロ水準にしたうえ、国債や不動産担保証券を買い進める、前代未聞の量的緩和策と解釈できる。マネーが無尽蔵に放出されることで、企業や政府の資金コストがほぼゼロになる。「天国」のような政策だ。

一方で、将来的なインフレ圧力が高まるうえ、FRBに経済社会のリスクが集中してしまう。金利が急に上昇したらFRBが損失をかぶり、米ドルの信認が損なわれるという「地獄」のシナリオも待っている。

案内役の女性は、最初に量的緩和を紹介した日銀だろう。ホテルの中庭には女性の友達たちが踊っており、甘美な雰囲気に酔った「僕」がグラスを注文すると、遠くからまた歌声が聞こえてくる。「みんなここに住み着いているのさ。何てうれしい驚きだろう」

グラスは、FRBが08年以降に打ち出した量的緩和策の数々「QEシリーズ」を意味する。踊っている女性の友人たちは、欧州中央銀行(ECB)といった各国の中央銀行。みんな量的緩和に酔っている。

享楽的な雰囲気のなか、「僕」が天井の鏡に映し出されたシャンパンボトルを見上げると、女性が語り始めた。「私たちはみな囚人なの。自分たち自身が作り上げたのよ」

量的緩和は過剰流動性を生み、新興国株や利益も出ていないネット・環境関連銘柄の急騰を生んだ。不動産バブルの次は株式バブル。失業率が低下したといっても、ベビーブーマーが引退し、若年層が求職活動を諦めた構造変化が作用した。

「最後に覚えていることは、ドアに向かって走っていた自分。最初にいた場所を探さなきゃ」
金融政策の「一本足打法」だけでは企業のニーズに合わない失業者を吸収できないのに、気がついたらFRBの資産は危機前の4倍に膨らんでいた。FRBは秋口以降に「出口戦略」を模索するが、債務上限引き上げなど政治問題が山積し、目先は諦めた。量的緩和を早期に解除すれば、設備投資も個人投資も落ち込んでしまう。

「いつでもチェックアウトできるさ…けどね、立ち去ることはできないのだよ」
さびは最後の締めくくり。米経済はもはやQE依存症、迷い込んだ「僕」はもう逃れられないのだ。(まつうら はじめ)』



最後にあのメロディが流れて♪
すべてがひとつになる時
ロックンロールがロックになる#59126;

レッドツェッペリンで天国への階段♪




EAGLES―ホテル・カリフォルニアへ、ようこそ

  • 作者: マーク シャピロ
  • 出版社/メーカー: リットーミュージック
  • 発売日: 1995/11
  • メディア: 単行本


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