和歌山カレー事件―獄中からの手紙

  • 作者: 林 眞須美
  • 出版社/メーカー: 創出版
  • 発売日: 2014/07
  • メディア: 単行本


【和歌山カレー事件 獄中からの手紙/林眞須美・他/14年7月初版】
彼女冤罪かもしれませんね。この本を読んでそんな気がしてきました。だったらなぜ黙秘したのか。誰かを庇おうとしたのか。。。



劇場型犯罪。いろんな事件がありますがすごく印象に残る事件です。和歌山の人には申し訳ないですが、和歌山というと反射的にカレーが浮かんできます。智弁和歌山、住金和歌山、和歌山カレー事件。すいませんボキャブラ貧困で。

彼女は悪くなかったのか。そんなことはありません。保険金詐欺を夫婦でやってる。18億円かけて5億7千万円も支払われている。りっぱな犯罪者です。

結局、「李下に冠を正さず」「空気」が林眞須美を死刑囚にしてしまった。ヒ素を使って保険金をだまし取ってた。そんな悪い奴だから、カレーにヒ素を入れるかもしれない。いや犯人は彼女だろうと。

彼女は冤罪を訴えてますが、自業自得と言えばそれまでか。ただちょっと死刑は重いような気がします。

この事件が冤罪だなんて露ほども思っておらず、ただ死刑囚の手記とはどんなものか、という興味だけで読んでみました。まさか冤罪を確信することになろうとは。(ちなみに手記は、世に数多ある日記ブログみたいな感じでポップです。獄中で宮本輝、林真理子、立原正秋の作品はすべて読破したそうで、とくに「海岸列車」と「春の鐘」が大好きだと。それなりに本を読んでるので、文章は読みやすいです)

本書は1章と3章前半は林眞須美の手記、2章は支援集会での家族と安田弁護士のやりとり。3章後半は2013年以降大きな議論となっている、ヒ素鑑定をめぐる京都大学の河合教授のインタビューという構成です。(8pの後半は要校正。関係者が見てたら二版から訂正しないと4章があることになってます)


以下に読書メモを。


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<事件概要>


1998年7月25日、和歌山市園部という街の夏祭りで出されたカレーに、毒物のヒ素が混入され、死者4人を含む被害者67人という大惨事が発生した。

林健治氏がシロアリ駆除の仕事でヒ素を使っていたとして警察がマーク。林夫妻の自宅にマスコミが訪れる。8月25日に朝日新聞が、夫婦がヒ素を使った保険金詐欺で容疑者として浮上していることを大々的に報道。間もなく逮捕という情報が流れて、林家前に報道陣が24時間張り込みを続ける。

世間の多くの人がカレー事件の死刑判決を確定的なことと受け止めているが、実はその構造はかなり脆弱だ。そもそも大量の毒物を混入させて地域住民を無差別殺害するという動機が眞須美にはない。カレー事件はどこをどう調べても、保険金の影が見えない。

さらに自白もない、犯行の目撃もない、指紋も証拠もない。犯罪の証明があるわけでなく、推認できるとして犯人だ、死刑囚だとされている。




<逮捕の日>


1998年10月4日、夫婦は逮捕される。両親が揃っていきなり逮捕されるという現実に直面した4人の子供たちは児童養護施設に預けられ、そこで生活した。

本書では子供たちに「今までで一番辛かったことは?」と質問しているが、次女は「やっと入社した会社で両親のことがわかりクビになった」。長男は高校のバスケットでキャプテンをしてて「兵庫県で試合中に、死刑囚の子供という野次がとんできたこと」と。




<林健治が自らヒ素を飲んだ理由>



昭和63年に自分でヒ素をなめて、高度障害の保険金を2億3千万円もらい病みつきになった。平成9年に眞須美の母親の保険金をギャンブルで使い込み、眞須美に出て行けと言われ、その時にヒ素を自分で飲んだ。家を追い出されそうになって、自分の体で返そうとした。

小寺検事に正直に言うと、「そんなことは考えられない。お前は眞須美に飲まされたんだ。そういう調書に署名すれば、八王子の医療刑務所にも入れてやるし、司法取引になるから公には言えんけども、公判を担当するのは私だから、私なりに考える」と。




<眞須美の場合の獄中生活>



ロボット化した繰り返しの日々。畳三畳の独居室に、トイレも着替えもすべて四六時中、頭上の監視カメラと録音マイクにて監視されている。四方はセメント壁であり、冬は建物が古いため、窓のすきまから風が吹き込み寒い。外部交通制限で、面会、受発信もない。精神的には落ち込む一方になる。




<ヒ素鑑定・中井鑑定に対する河合教授の批判>


カレー事件有罪判決の決め手とされたヒ素鑑定が大きく揺らいでいる。東京理科大学の中井教授が当時の最新鋭「スプリング8」という大型放射光装置を使って鑑定したが、京都大学の河合教授が疑問を表明した。専門的な学会論争となっている。


河合氏へのインタビューでは、「台所のプラスチック容器のヒ素と、紙コップのヒ素は違うんだろうなという感じがしている。もちろんちゃんとやってみないとわからないけど、今あるデータを見る限りでは、きわめて怪しい。たぶん中井さんが鑑定を依頼されて分析した時点では、紙コップと台所のヒ素は出所が同じ、つまり同じドラム缶から採られたものだということさえわかれば、あとは容疑者の自白で証明できるだろうと考えたんだと思う。でもそんな詰めの甘いことで、その先を自白に頼ろうとしたことで、結局破たんしている」

追補:京大の河合教授は「現代科学」2014年6月号に、「木を見て森を見ない分析」という論考を発表した。事件現場に残された紙コップのヒ素は濃度75%だが、林家のミルク缶にあったヒ素はセメントやデンプンが混ざって濃度49%だった。河合教授は「この事件では、濃度49%のヒ素を、紙コップに入れると75%に高純度化するという矛盾に誰も気づいてない」と書いている。そんなことは自然には起こりえない。ふつうに考えればヒ素は違うものと言える。死刑判決の決め手となったヒ素鑑定は、さらに検証する必要がある。




<和歌山県警鑑定結果偽造事件>


和歌山県警科捜研の能阿弥・元主任研究員が2010年に起きた7件の鑑定で、別事件のデータを流用した偽文書を作り、証拠をねつ造したとして、証拠隠滅と有印公文書偽造・行使の罪に問われて本人は依願退職した。

実はこの人物、カレー事件の捜査でも4通の鑑定書作成に関与し、くだんの紙コップのヒ素鑑定にも関わっていた。




郷ひろみと樹木希林で、林檎殺人事件♪





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