ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

  • 作者: 柴 那典
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/16
  • メディア: 新書


【ヒットの崩壊/柴那典/16年11月初版】
まず世界の音楽産業について。
「音楽は所有することから、アクセスすることへと変化した」
音楽の聴かれ方は、抜本的に変わりました。

アメリカレコード協会によると、
2016年の音源収益(Recorded Music Revenue)は以下。



2016年はストリーミング49%、ダウンロード31%、CD20%。
前年比でストリーミングが15%拡大。約半分になった。

ちなみにストリーミングを以下の3つに分けてる。
・フリーで広告タイプのyoutube他
・定額制タイプのスポティファイ他
・ストリーミングラジオのパンドラ他

伸びてるのは定額制ストリーミング(スポティファイやアマゾン)の部分。
たった1年でシェアが倍増してる。

ちなみに2017年はストリーミングは62%まで拡大。DL19%、CD16%。
もはやダウンロードさえしなくなった。

そういやぼくもツタヤディスカス(CD)解約しました。
2016年にアマゾンプライム、2017年にアマゾンミュージックアンリミテッドと契約。

ディスカスに1000円/月払って4枚レンタルより、ダウンロードし放題の方がお得だから。
わが家は長男はアマゾンプライム、次男はスポティファイです。
家族の男は全員ストリーミングへ移行しました。

2016年4月、カニエ・ウエストはCDを1枚も売ることなく全米1位になった。
ストリーミング(ビルボードは1500回再生で1枚CD売上と換算する)とダウンロードだけ。

シカゴのチャンス・ザ・ラッパーは、音楽を売った経験なしでトップスターになった。
2枚のアルバムはすべて無料配信。フリーダウンロード。
多くのレーベルが獲得に動いたが、彼はそのオファーをすべて断る。
あくまで有料販売をしないという方針を貫いた。

2016年5月、チャンスザラッパーは、アップル限定で新作をストリーミング配信。
再生数のポイントが数万枚のCDセールスに匹敵する数字となって、
史上発の「ストリーミング配信のみで全米TOP10にランクインしたアルバム」となった。
現在のアメリカは、音楽が売れないという認識の先を行き、
売らないことを選択したアーティストが、巨額の収入を得ている。

対して日本の音楽業界は、潮流に乗り遅れてます。
2015年の音楽ソフト(CD,DVD,ブルーレイ)の売上が2544億円。
有料音楽配信売上は471億円(うち定額ストリーミングサービスは124億円)。
合算約3000億円。日本はまだ8割がCD(フィジカル)です。アメリカと真逆。
あかん、かんぜんにガラパゴスや・・・

世界の音楽ソフト市場は150億ドルなので、約2割が日本(日本は単価が高い・・)。
ちなみにアメリカは49億ドルで3割強。日米の売上で世界の音楽市場の半分を占める2大巨頭。

なぜ日本はストリーミングが伸びないのか?
理由はシンプルで、邦楽の最新曲が網羅されてないから。
リスナーはCDを買うかダウンロードするか、レンタルせざるを得ない。

2016年9月時点で、チャート上位50曲の1か月分の網羅率を測った。
米英は、スポティファイ&アップルミュージックともに100%。
(アデルのように配信開始を遅らせる例もあるが)
対して日本は、ビルボードジャパンHOT100上位50曲の1か月分の網羅率は43%。
CDプレーヤーを持ってない若いリスナーもいる。これでは市場が伸びない。


以下に、その他の読書メモを。


▼広告▼





日本の音楽市場(音楽ソフト市場+ライブ市場)の推移


史上最もCDが売れた1998年の音楽ソフト売上は6074億円。
2000年は5398億円、2015年は2544億円。1998年と比べると、半分以下に減っている。
一方でライブ市場は2015年で3405億円。

いまCDは数万枚売れればよいほう。
かつて有効だったプロモーション戦略が通用しなくなった。
1990年代はドラマのテーマソングとタイアップし、音楽番組に出演すれば、
次の日には2~3万枚レベルが、60万枚とかに跳ね上がった。
昨年同じ戦略をとった若手バンドは、ほとんどチャートが動かないありさまだった。


⇒数値が断片的だったので、ググってみました。
ライブとCDは合計したら変わってないのでは?という疑問。

音楽ソフト生産金額推移
https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_m.html
ライブ市場売上推移
http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/

1998年ソフト6075億円、ライブ711億円、合計6786億円
2002年ソフト4814億円、ライブ815億円、合計5629億円
2005年ソフト4084億円、ライブ1049億円、合計5133億円
2010年ソフト2836億円、ライブ1576億円、合計4412億円
2013年ソフト2705億円、ライブ2588億円、合計5293億円
2015年ソフト2544億円、ライブ3186億円、合計5730億円



グラフにしてみた。音源市場にライブ市場を加えると、めっちゃV字回復やん。
ピークには及ばんけど、2002年レベルまで戻ってる。

店舗ショッピングから、ネットショッピングに構造変化したのと似てる。
音楽というエンタメに以前とおなじ以上のカネは使ってるけど、コンサートへシフトしただけ。

これ、レコードレーベルはしんどいけど(本屋が苦しいように)、
ライブに魅力あるバンドは、めし食っていける、ちゅうことですよね。
作家が出版社通さず、キンドル(プラットフォーム)で直接本を売るように。

ライブショーが魅力やったり演奏技術があれば、中堅どころでも末永く活動していける。
実力派にはええ流れやと思う。そう簡単でもないやろけど。

今後アーヴィン・エイゾフがつくった、ライブ・ネイションの日本版のようなものができるのか。
それは搾取じゃなくて、音楽家にもちゃんと分配されるのか。

マネジメントもレーベルも、成長分野のライブ市場に群がって綱引きしてると思うけど、
音楽家と業界がウィンウィンになれば、音楽市場の未来は明るい。
消費者が落としてるカネは、そんなに変わってないわけやから。


▼広告▼





オリコンのTOP5は誰も知らない歌


オリコンとは、創業時の社名「オリジナルコンフィデンス」の略称。
コンフィデンスとは「信頼」という意味。正確な売上枚数の推定により信頼性のあるチャートを作る。

どういう基準で作られたかわからないチャートより、ずばりCD実売のほうが客観的な時代もあった。
しかし時は流れ、2011年~2015年、オリコン年間シングルランキングTOP5。
すべてAKB48となった。年間TOP5で過去5年すべてである。
こんなチャート意味がない・・・

ちなみに、iTunes Storeのダウンロード購入数の2014年&2015年TOPは以下。

2015年
1位:ドラゴンナイト セカイノオワリ
2位:RYUSEI 三代目JSOUL
3位:シェキオフ テイラースイフト
4位:アイ・リアリー・ライク・ユー カーリーレイジェプセン
5位:シュガーソングとビターステップ ユニゾンスクエアガーデン

2014年
1位:ありのままで 松たか子
2位:ひまわりの約束 秦基博
3位:ストーリーオブマイライフ ワンダイレクション
4位:レリゴー イディナメンゼル
5位:ハッピー ファレルウイリアムス

ドラゲナイとかレリゴーとかハッピーとか。こちらのほうが圧倒的に実感値に近い。
オリコンは今後ダウンロードデータを加えていく方針とのこと。
対応が遅すぎて「信頼」を失った感があるけど・・・

ちなみにビルボートチャートは「所有と接触のミックス」。
ラジオプレイやyoutubeが音楽への接触。パッケージやダウンロードが所有。




なぜカラオケで新曲が歌われなくなり、スタンダードが好まれるてるのか


オリコンともビルボードとも違うチャートだが、
カラオケのランキングには、その年の流行や世相が反映されている。
流行歌の定義として、多くの人に口ずさまれた回数のランキングというのは正しい指標。
10年後、20年後に振り返ったときの懐メロは、これらの曲になるはずだ。





しかしカラオケ曲は定番化する。
ほんとにいい歌、スタンダードを中心に歌われる。徳永がボーカリストで先鞭をつけた。
(徳永はロッドのまねして、ロッドはリンダ&ネルソンリドルのまね)

新曲が歌われなくなったのには、理由もある。
むかしは歌本で曲を探していた。歌本は新曲の冊子が別になっていた。
新曲の早見本を通じて、新曲を歌うことに誘導していた。

しかし現在、新曲の早見本はない。
端末化により、「いま何が歌いたいか」ということを直感するしかなくなった。
そこで多くの人は、履歴を見る。パッと歌いたい歌が思い浮かばないからだ。
かくしてカラオケは、みんなが知ってるスタンダードが歌われる場に変化した。




ロックにおけるもっとも革命的な1日は、1963年の2月11日と言われています。
ビートルズはこの日、10時間でデビューアルバムに収録する10曲をレコーディングする。
練習1万時間の法則。ビートルズはブレイクする1964年まで、8時間x1200回のライブを行います。
劣悪なハンブルグのナイトクラブで彼らは鍛えられる。そしてビートルズはロックに革命を起こした。
2017年は日本でストリーミング拡大による、レコード革命が起きる年になるかもしれません。
そしてライブで鍛えられた本物の音楽家は、またどこかで革命を起こすかもしれない。




(関連記事)
【サウンド・マン/グリン・ジョンズ/16年3月初版】⇒ロックの歴史がわかる本
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2016-07-02

【誰が音楽をタダにした?/スティーブン・ウィット/16年9月初版】
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2017-04-18

【amazon music unlimited レビューと感想】
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2017-12-23

トラップ(音楽)とは?【USヒップホップの現在】要約まとめ
http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2017-08-29


▼広告▼