理系の子―高校生科学オリンピックの青春

  • 作者: ジュディ ダットン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/03
  • メディア: 単行本


【理系の子/ジュディダットン/12年3月初版】
サイエンスノンフィクション。涙と笑いと誇らしい気持ち(水戸黄門みたい)が味わえます。何かに退屈されている方には、お薦めです。

インテル国際学生科学フェア。それは高校生による科学のオリンピック。世界中の予選を勝ち抜いた理科の自由研究が集い、名誉をかけて競います。

著者は、世界50カ国から集まった1502名の参加者の中から、特に心を動かされた6人と会い、ひとり1章を割いてそれぞれの歩みを追っています。残りの5章は過去の受賞者について書かれています。それはサイエンスフェア関係者では伝説となっているものです。そして最後はサイエンスフェアです。取材をした6名の中から、優勝者は出るのでしょうか。

動物科学、物理学、天文学などの17の分野で、1~4位まで表彰されます。4位の賞金は10万円ほどですが、さまざまな協賛企業(GEや米軍などさまざま)も独自の賞金を設けていて、強者には、賞金だけで数千万円が送られます。さらに年間の学費が3百万円にもなるような米国の有名大学の奨学金も得られたりします。(ハーバードは5百万円程)それだけで1千万円規模になる。これは不遇なものからすれば、まさに蜘蛛の糸、アメリカンドリームです。

ちなみに日本からの参加者で1位を受賞した千葉県の少女が、巻末に特別寄稿をしています。

11編はそれぞれ短編のようで、それだけでも楽しめます。以下に概要を。

(広告)




①核にとり憑かれた少年
10歳のときに爆薬を製造してみせた少年テイラー。やがて彼がめざしたのは「核融合炉の製作」だった。⇒核分裂と核融合は違います。ITERや太陽が核融合です。

②ゴミ捨て場の天才
マイノリティ(先住民ナヴァホ族)で暖房のない貧しい家。喘息に苦しむ妹のためにギャレットが廃品からつくり上げたものとは。

③わたしがハンセン病に?
突如ハンセン病と診断された少女エリザベスはめげない。この病を研究し、彼女は差別と戦った。

④鉄格子の向こうの星
熱血理科教師が赴任したのは少年矯正施設だった。生徒の才能を伸ばすために彼は奮闘をつづけた。

⑤ホースセラピー
父に教えられ、馬の調教の天才になったキャサリン。病に倒れた父のため生活はギリギリ。彼女は奨学金を手に入れられるのだろうか。

⑥デュポン社に挑戦した少女
町の水が汚染されている。その浄化の研究を始めた少女の父も姉もデュポンで働いていた。家族の反対を押し切り、企業城下町を敵に回す。

⑦もはやこれまで
セイラは日本人とメキシコ人のハーフで、極貧の生活を送っていた。つらい過去を持つ彼女を支えるのは教師と友人。大学に行くのは奨学金を得るしかない。

⑧手袋ボーイ
幼い頃から科学技術オタクだったライアン。そんな彼はフェアで優勝し時の人になり、「グッドモーニングアメリカ」にも出演した。テレビから彼はある女の子をダンスパーティに誘う。アメリカで「今年いちばんイケてる男の子」にも選ばれた伝説。

⑨イライザと蜂
フォードのモデルで女優志望で科学嫌いの美少女イライザ。生徒に慕われる名物教師と出会い、実験室で奮闘をはじめる。

⑩ロリーナの声に耳を傾けて
自閉症の従妹の隠れた才能に気づいたケイラは、それを入り口に画期的な教育プログラムを編み出した。

⑪第二のビルゲイツ
巨額の賞金を獲得し、自身の会社も興したフィリップ。その才能を育んだのは文化も何もない僻地の町だった。両親共にハーバード出でモルガン社で働いていたが、9.11で生活は変わった。大草原の小さな家のような農場暮らしをし、学校は行かず自宅で母親からすべてを学んだ。頭が切れるだけでなく、ルックスは「卒業白書」のトムクルーズのように魅力的。


以下に簡単な読書メモを。

<電子レンジにブドウを入れるとプラズマが発生する>
ブドウを半分に切り、電子レンジのなかに入れてスイッチを入れる。数秒後にブドウの上に紫に輝く火の玉ができる。ブドウはその形と大きさが適当で電解質を含んでいることから、マイクロ波を吸収して増幅させ、放射線を発生させる。電子レンジの的確なところに置けば、ブドウはプラズマと呼ばれる物質の第四の状態になる。

プラズマはイオン化されたガスからなっている。つまり通常は原子核にとらえられている電子が自由に運動している状態だ。恒星や稲妻もプラズマからからできている。


<自閉症>
150人にひとりの割合で自閉症と診断される。


<ミツバチの役割>
ミツバチは花を受粉させ、蜂蜜を作り出すだけでなく、農作物の受粉でも大きな役割を担っている。わたしたちが口にする食物の3分の1はミツバチが受粉させたものだ。ミツバチがいなければ、世界中の植物の大半は枯れてしまい、世界は不毛の地となる。




(広告)