2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/04/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


【2030年世界はこう変わる/米国国家情報会議編/13年4月初版】
2030年。あなたはどこで何をしているのでしょうか?定年は65歳から70歳に延びて、まだ仕事をしているかもしれません。今の高校生は35歳になる。人生の悲哀がわかりはじめ、社会の中堅でがんばっている時です。

この本は米国国家情報情報会議がまとめた、グローバルトレンド(中長期)です。かつてこのレポートは大統領と閣僚にしか公開されてませんでした。今は一般に公開されて、とくに米国で中長期の予測を必要とする人たちは、このレポートを読み込み、このレポートから考えを出発させるそうです。

未来本を数冊読んでる人たちには、特に目新しいものはないと思います。あまり読まれてない方には、ベースとなるものなので、お薦めします。

一読して思うことは、アメリカは強い。もちろん不安要素もあります。医療保険、中等教育水準の低下、所得の分配がうまくいってない等。強みは移民の力で人口構成が若い。シェールガスでエネルギーコストが安い。強大な軍事力等。他の地域と比較するとやっぱり強いです。


簡単な要約を。


(4つのメガトレンド)
・個人の力の拡大
貧困層が激減し、アジアを中心に10~20億人もの新たな中間所得層が誕生する。極度の貧困層も現在の10億人から5億人に減る。人々はより健康になり、通信技術の発達で情報武装する。

・権力の拡散
欧米各国の力が衰え、世界は覇権国家ゼロの状態になる。中国の労働人口のピークは2016年に到来。インドのそれは2050年になる。中国が米国の国力を上回るのは2040年以降。

・人口構成の変化
高齢化や若者の減少。移民や都市化が世界のあらゆる場所で進む。2012年世界の人口は71億人。2030年は83億人。

・食料、水、エネルギー問題の連鎖
怖いのは天候不順。シェール系燃料の開発でエネルギー不足は解消。2030年までに世界の食料需要は35%拡大する見込み。これは輸出入の効率化や新技術を通じた生産効率の向上により、ある程度対処できるとみている。

(6つのゲームチェンジャー)
・危機を頻発する世界経済
新興国、特に中国、インドが世界経済の牽引役に。ただし中国は緩やかに失速。複数の民間予測を総合すると、中国は2020年までの年間実質成長率は年率5%程度に落ち着く。2020年時点での国民1人あたりのGDPは中国1万7000ドル、ブラジル2万3000ドル、ロシア2万7000ドル。G7諸国平均は、6万4000ドルと予測される。

・変化に乗り遅れる国家の統治力
ITの発達により国民の権利意識が向上。国家の統治力は次第に衰える。国民の1人あたりの収入が1万5000ドルを上回ると、民主化の動きが活発になると言われる。中国は今後5年以内にそうなる。中国の民主化は、国粋主義的な内向き傾向が中期的に強まるという意見で一致している。近隣諸国との軋轢がさらに悪化する可能性がある。

・高まる大国衝突の可能性
史上稀な平和な時代だが、中国VSインド、米国VS中国が表面化する可能性も。

・広がる地域紛争
中東やアジアで武力衝突は起こるのか。各地域のシナリオ解説は省略するが、東アジアの4つのシナリオを以下に。
①現状維持型:米国が制海権を維持し同盟国は米国の保護を期待できる。
②新均衡型:米国がアジアの警察官の役割を縮小すると、各国は新たな均衡を求めて対抗する。
③欧州式の共生型:中国が民主化を進め、米国がアジアの小国にも引き続き安全保障を提供する。
④中国覇権型:日本の衰退が急激に進んだり、インドの台頭が遅れると、アジアは中国を頂点とした秩序を構築する。

・最新技術の影響力
今後の世界を大きく左右するのは以下の4分野のテクノロジー
①情報技術:データ処理、SNS、スマートシティ
②機械化と生産技術::ロボット、自動運転技術、3Dプリンタ
③資源管理技術:遺伝子組み換え食物、精密農業、水管理
④医療技術:病気管理、能力強化(体の特定部位の機械化)

・変わる米国の役割
影響力は衰えるもトップ集団の1位に留まる。


ここまで見てきた4つのメガトレンドと、6つのゲームチェンジャーの組み合わせ方によって、2030年の世界の姿は無限大に想像することができる。この本では4つのメインシナリオが描かれている。
①欧米没落型:欧米が対外的な力を失い、世界は大きな混乱期に移行する。
②米中協調型:第三国で勃発した地域紛争への介入を機に、米中の協力体制が確立する。
③格差支配型:経済格差が世界中に広がり、勝ち組、負け組みが明確に。EUは分裂。
④非政府主導型:国家単位の政府はなくならないが、国と国、国と非政府機関を結びつけるコーディネータ型に留まる。


その他の読書メモを以下に。

(広告)




<米国以外のシェール系燃料>
中国や欧州でシェール系の燃料が見つかっている。中国政府の予備調査によると中国国内に眠るシェールガスの埋蔵量は米国の2倍と、世界最大の規模。ただ技術がなく採掘のペースは米国より緩やかなものになる。欧州では、北米より環境基準が厳しく、政治家の間ではシェール開発は懐疑的。すでにフランス政府は水圧を利用したフラッキング行為を禁止する法律を制定した。



<再生可能エネルギーは不発>
安くて豊富にある天然ガスの普及により、水力や風力、太陽光などの再生可能エネルギーに対する注目はかすむ。IEAは2007~2050年の間のエネルギー全体に占める再生可能エネルギーの割合は、4%しか増加しないと見積もっている。2030年の世界では再生可能エネルギーが大きな存在になっているとは考えにくい。



<世界の水>
OECDは2030年に世界人口の約半数が、水不足の懸念のある地域に居住する状態になると予測している。2030年までに世界では年間6兆9000億立法メートルの水が必要となる。これは現在安定供給が可能な水量を40%も上回る水準である。土地や水源を効率的に使う最新技術の導入が遅れたり、地質を破壊する化学肥料の使用が続いたりすると、世界の食糧生産は需要に追いつかなくなる可能性がある。シェール系燃料は安価だが、地下水汚染の問題が絡んでくる。



(広告)