これから5年の競争地図: グローバルものづくりのトレンド

  • 作者: 中村 吉明
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 単行本


【これから5年の競争地図/中村吉明/13年11月初版】
元経産省の課長さんが書いたマクロ経済本。データがグラフ等でよく整理されており、近未来シナリオを再確認するのに役立ちます。

目からウロコの話は多くはありませんが、日本のバイオ産業の競争力が弱いということは初めて知りました。山中教授の活躍もあり、この分野は日本が先行していると思い込んでいました。そのへんは読書メモで後述します。


目次は以下。
1.これからも仕事は増えない
・工場の撤退は止まらない

2.アメリカ製造業のトレンド
・アメリカでは新しい仕事が生まれている

3.メイドインUSAの復活?
・M・ポーターの提唱する共通価値の創出とは(CSRとCSVの違い)

4.自動車産業はどうなる?
・コンボとチャデモ、電気自動車の規格競争のゆくえ

5.電機産業はどうなる?
・垂直統合か、水平分業か。EMSの活用はいいことか

6.バイオ産業はどうなる?
・M&Aよりオープンイノベーションが効果的?

7.これからのシナリオ
・アジャイルなチームをつくろう


これからのシナリオは、ベストと現実的と最悪の3つが用意されていますが、現実的なシナリオの要旨は以下。
・自動車産業は少しずつ世界市場シェアを落とすが、依然として存在感を発揮
・電機産業は苦境のまま、日本製品は世界市場から消えていき、リストラも続く
・バイオ産業では、iPS細胞の応用、産業化をほとんどアメリカに握られる

これからも日本が世界の一等国であることを望みますが、何もしなければずるずると後退していくかもしれません。もう一度チャレンジャーの気持ちで頑張る必要があると、再認識させられました。

以下にその他の読書メモを。


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<国力を維持するには製造の拠点を持たなければならない byクリスアンダーソン>
日本は戦後一貫して一次産業人口が減少し、90年代のバブル崩壊後は二次産業人口も減少している。ずっと伸びているのは三次産業。三次産業の賃金は低い。正社員の割合が宿泊・飲食サービス業は37%。製造業は79%とサービス業は身分がより不安定。

H24年の厚労省の業種別月間給与額は以下。
飲食サービス業:12.7万円
生活関連サービス業:21.9万円
その他サービス業:25.3万円
卸売、小売業:27.1万円
医療福祉:29.5万円
製造業:37.2万円

⇒空洞化で製造業が衰退し三次産業(サービス業)に雇用がシフトすると、派遣が増えて身分が不安定になり、給料も激減します。この流れをほっておくと中間層の喪失となり、国内市場はジリ貧となる。クリスじゃなくとも分厚い中間層の創出には、強い製造業の復活が必要です。



<建設業の就業者数の推移>
1997年の685万人⇒2012年503万人
⇒復興需要で人手が足りず、賃金が高騰している理由がよくわかりました。



<3Dプリンターの新用途>
産業用では、鋳造鋳型の製作に3Dプリンタを活用する動きがある。鋳鉄やアルミニウム合金などの生産方法も劇的に簡単化される。経産省は13年度から5年計画で研究開発を進める。参考図書は水野躁「3Dプリンタ革命」や「ニューズウィーク日本版13年8月6日号」

⇒鋳鋼はダメなんでしょうか?



<国内自動車大手8社の2012年生産比率>
国内生産:944万台(内輸出446万台)
海外生産:1,524万台



<トヨタとヒュンダイの戦略の違い>
トヨタは新興国市場に参入する際、年産数万台程度の小規模工場からスタートする(アコーディオンライン)。市場が育てば規模を拡大する。ヒュンダイは最初から30万台という大規模な工場を建設し、規模の経済で価格を下げる戦略。

日本の自動車メーカーの売上に占める研究開発費は、ヒュンダイに比べはるかに大きい。ヒュンダイはマーケティングやデザインにカネを投入する。10年先の技術より、直近のブランドイメージの獲得を重要視する。短期的にはヒュンダイは売上を大きく伸ばしている。



<自動車産業の雇用>
1991年に94万人⇒現在は79万人。この中には一次、二次下請けなどの自動車部品製造業も含まれるが、すべての自動車関連産業を含んでいない。日本自動車工業会によると、すべての関連産業を含めると545万人程度と、日本の全就労者数6257万人の8.7%を占める。



<日本のバイオ産業の競争力は弱い>
2012年に日本の貿易赤字は6.9兆円に膨らんだが、そのうち医薬品の輸入超過額は1.6兆円。10年前の5倍に膨らんでいる。輸出は減少傾向にあり、輸入は増えている。主な増加理由は抗がん剤などの高額な薬をアメリカやドイツなどからの輸入に頼っていること。競争力の低下が著しい。



<医薬品は開発費のウエイトが高い>
通常の製造業の売上高に占める開発費のウエイトは3%前後だが、医薬品は20%にもなる。化学で8%程度。日本の新薬の開発成功率は2005~2009年で0.003%。開発費が高く、成功確率が低い。

これまで売れ筋で稼ぎ頭だった医薬品が特許切れとなり、ジェネリック医薬品に取って変わられた(医薬品の2010年問題)。簡単な薬はほぼ出尽くした感があり、今後はより開発が難しいものしか残っていない。

⇒この本に2012年の世界売上TOP10の製薬の表があり、10位に日本企業で唯一、大塚製薬の躁うつ病治療薬「エビリファイ」が食い込んでいました。エビリファイだけで約5300億円/年の売上。ちなみに1位はアッヴィの抗リウマチ薬「ヒュミラ」。約9300億円/年の売上です。

「エビリファイ」は内海聡の「精神科は今日もやりたい放題http://donhenley.blog.so-net.ne.jp/2012-11-10 」で叩かれていた薬です。昔は二大精神病であった「躁うつ病」を、気分の変調である「うつ病」患者に適用して売上を上げたいだけだと。軽い病を重く診断してキツイ薬を出す。

製薬会社や医者のビジネスも大事かもしれませんが、患者の健康第一に考えて欲しいです。それにしても金額がビッグビジネスすぎて、横槍を入れようもんなら抹殺されそうです^^;




あんたのせいでこうなった♪
あんたがいなけりゃ生き返る
精神安定剤を飲んだのと同じように♪

ノラジョーンズでHappy Pills♪彼女ほどの美貌と名声があっても、色々と苦労はあるんでしょうね。ちなみにノラのお父さんは、ジョージハリスンのシタールの師匠です。60歳のときに生まれた娘で、成人になるまであんまり会わなかったとか。ノラ父がいなければ、「ノルウェーの森」や「黒くぬれ」は生まれなかったかもしれません。




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