ラップは何を映しているのか――「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」まで
- 作者: 大和田 俊之
- 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
- 発売日: 2017/03/27
- メディア: 単行本
【ラップは何を映しているのか/大和田、磯部、吉田/17年4月初版】
「世界とはアメリカのことである」、とは誰の言葉だったか。
世界のGDPは約8000兆円で、2000兆円が米国です。
英語圏のGDPは3000兆円。ちなみに日本は500兆円弱。
アジアの台頭で米国の力が弱まったとはいえ、世界の3割はアメリカの影響下にあります。
経済大国の文化影響は強くて、映画、音楽、ファッション、出版・・
さまざまな影響を日本も受けてる。
とくに音楽。
過去、新しいものはほとんど英語圏からきてました。
なのでビルボードUSを一応チェックしてます。
何度も書いてますが、もうね、ずーっとラップが優勢なんですよ。
7月8日付(今日発表)ビルボードアルバムチャートのベスト10。
4作品がラップです。そのほかポップ3、カントリー2、ロック1。
ちなみにポップ3とロック1は以下。
(ポップ:ロード、エドシーラン、ブルーノマーズ。 ロック:ニッケルバック)
とくにロックバンドというフォーマットが、TOP10に入ってこなくなった。
なんでこんなことになったのか?
そこらへんを理解したくて、さいきんヒップホップの本を読むようになりました。
いや、なんとなく、頭ではわかってるんですよ。
伝えたいことがある。むかしは3コードでパンク。今はPCとマイクでラップする。
楽器が弾けなくても、だれでも言いたいことがいえる。
本書はかなり面白かった。
慶応の教授と、ミュージシャンと音楽評論家が対談してます。
内容は、以下の目次を参照ください。
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けっこう面白いことが書かれてるので、
最近の米国音楽史を理解するには、直接本を読んだ方がいいです。
そうですね、おすすめの読み方は、スマホを手元に置いて、
ミュージシャンの名前や楽曲が出てくるたびに、Youtubeで検索する。
確認しながら読み進めると、理解が深まります。
以下に読書メモを。
ヒップホップとは何か?
アメリカでは、ヒップホップという単語はほとんど使われなくなった。
70年代半ば、「DJ」「ラップ」「グラフィティ」「ブレイクダンス」
4つのユースカルチャーが、サウスブロンクスのブロックパーティの場で出会った。
その文化をグランドマスターフラッシュのDJの上でラップしていた、
カウボーイの得意のフレーズから取って「ヒップホップ」と呼ぶようになった。
ラップが広く用いられていること、最近ではトラップの台頭もあることで、
かつてのようにラップ=ヒップホップではなくなっている。
トラップとは何か?
南部のヒップホップから派生したサブジャンル。
BPM70前後の遅いテンポに、ベースミュージック譲りの重低音。
しかもそれを倍で取ることによって縦ノリ的な動きが取り入れられるので、
ブラックミュージックが、いわゆる黒いグルーブを核とする、
ファンクの呪縛から解放されたようにも感じる。
細かく刻むハットや連打されるスネアがトレードマーク。
上に乗るラップはリリックの内容よりも、フレージングやサウンドに重きが置かれ、
オートチューンを活用したメロディラインを伴うことも多い。
ヒップホップ史の書き換え
「ハミルトン」にしても「ゲットダウン」にしても、
ヒップホップをアメリカ合衆国の歴史の中で、捉え直そうとする流れがオバマ政権下であった。
ブルース、ジャズ、ヒップホップなどあらゆる米国の黒人音楽が、
すべてヒスパニックの貢献をより強調する形で歴史の書き換えが進む。
「ゲットダウン」は主人公がヒスパニックなので、ついにきた。
もしスパイクリーがゲットダウンを撮っていたら、完全に黒人カルチャーとして撮るはずで、
まったく違うものになっていた。
ヒップホップ=ラップ=黒人のように捉えられるようになったのは80年代に入ってからで、
黎明期において、シーンはヒスパニックをはじめ、多様な人々で構成されていた。
ポスト・トゥルースとは?
ブレグジットや米国大統領選を踏まえ、
オックスフォード辞典が今年を象徴する言葉として、「ポスト・トゥルース」を選出した。
事実より感情が優先される世界、人は自分の見たいものしか見ない、が正当化された。
ヒップホップとジャズの類似性
ケンドリック・ラマーが符割りとライミングの複雑化の極致のスキルを見せつけながら、
もう片方で空間性を感じさせるトラップが流行しているのは、
ジャズでいうところの1959年、コルトレーンが「ジャイアントステップ」で、
ハードバップの極限に達したのと同じ年に、マイルスが「カインドオブブルー」で、
モード奏法を世に問う、と似たような状況にある。
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ラップは政治的なのか?
リル・ウェインやエイサップ・ロッキーはBLMに興味はないと言ってる。
(ブラック・ライブズ・マター。黒人射殺警官の無罪判決への社会運動)
エイサップもヤングサグと同じように服好きだが、
自分がよいと思うデザイナーがゲイばかりだと気づいて、
ホモフォビアなんてバカバカしいと考えるに至った。BLMにも越境していく感覚が抱けない。
ケンドリックのようにアフリカとラップをつなげて、
文化を歴史という縦の方向で再編していく動きもあれば、
エイサップのようにEDMやゲイとつながり、
多様性という横の方向で再編していく動きもある。
ケンドリックだけを取り上げて「ラップは政治的だ」というのは片手落ち。
女性ラップはどうなのか?
ヒップホップカルチャーの黎明期にはふつうに女性も関わっていたが、
ラップは男性、R&Bは女性という風に分けられてしまった。
ラップはパーティラップもNYのリアリティラップも、
ハードコアでマッチョなものになっていったため。
リル・キムについて。
彼女はビッチというキャラをまとって出てきた。
それまでの女性ラッパーは男性性をまとい、ビッチをディスしてた。
対してリル・キムは自分はビッチの中のビッチだと名乗って価値観を反転させた。
リル・キムはある曲のなかで歌う。
あんたたちは嫉妬してるだけよ♪
あんたより上手くしゃぶれるし
あんたよりよく濡れるし
あんたよりファックがとくいだからね♪
ただ女性からの支持は薄い。
ニッキー・ミナージュやローリン・ヒルやメアリー・J・ブライジのように、
同性からのリスペクトは得られなかった。
フリースタイルダンジョンブームの行方は?
スケボーのように、コンペティッションが中心となるシーンは、
カルチャーとして衰退する。
フルースタイラーによるクラシックアルバムは誕生したのか?
アメリカでもスクリブル・ジャムの時代から、いいフリースタイラーほど、
音源がダサイというジンクスみたいなものがあった。
日本でも同じことが起きるのでは?
という危機感はプレイヤーの間でも、以外と共有されている。
コリアン・インベージョンはなぜ続くのか?
日本では宇多田ヒカルやフランク・オーシャンと共演した、KOHHのあとが続かない。
なぜコリアン・インヴェイジョンは続くのか?
韓国は国内マーケットが小さいので、ポップミュージックの輸出に意識的。
英語に強かったり、ネットの普及が早かったり、
アメリカにおけるコミュニティの規模が大きかったり、
日本とは条件が違う。
ラップはお笑いになるのか?
DOTAMAが地方のショッピングモールで、
お客さんからお題をもらって、フリースタイルをしていた。かんぜんに落語の世界。
しかも子どもに「うんこ」とか適当に言われたのを、しっかり拾っていってる。
こういう根付き方もあるのか。10年後には「笑点」にラッパーが出てくるかも。
ここにきて90年代に先人たちの闘ってきた、
「お笑い」に見られてしまうことへの抵抗運動が、すべてリセットされかねないと。
吐き気がするだろ みんなきらいだろ♪
まじめに考えた まじめに考えた♪
ああ ぼくパンクロックが好きだ♪
中途半端な気持ちじゃなくて♪
ああ やさしいから好きなんだ♪
ぼくパンクロックが好きだ♪
ブルーハーツでパンクロック♪
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