脳には妙なクセがある

  • 作者: 池谷 裕二
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: 単行本


【脳には妙なクセがある/池谷裕二/12年8月初版】
あなたは脳科学者じゃなくてタレントでしょというニセ者が多い中で、日本が世界に誇る脳研究者。
12年にはこれまで未解明だったシナプス形成の仕組みをつきとめ、サイエンスに発表しました。

前作が面白かったので、新作もフォローしました。
今回も世界の最新の知見を次々と披露しています。参考文献欄がびっくり。
全部横文字で207件も列記してある。これじゃ参考文献読めないじゃないですか(笑)


やっぱり理系の分野で研究をしていくなら、発表言語が英語なので、
英語を扱えないと最新の知見を得るスピードが遅れてしまう。
もう僕はいいので、子供らにはこのことをしっかり伝えていかないと。

幸いなことに、子供らは洋ゲーをやりこんでます。
それなりに理解もしてるようだし、身近なところから接してくれれば、
アレルギーもなく学びも早いかも。僕らのときは洋楽ロックだったけど、時代は変化していますね。


この本でぼくが最も興味を惹かれたのは遺伝に関する話です。
これまで読んだ関連本によると最新の遺伝学、心理学では
「知能の大半は遺伝であり、努力しても大してかわらない」という理解でした。
(頭の回転だけでなく、机に向かえる、集中できる、という性格も遺伝)

これを覆す可能性のある実験が、動物実験の段階ですがタフツ大学のフェイグ博士の報告にあります。
似た現象がヒトでも生じる可能性は同じ哺乳類なので十分にあります。

母親が若い頃に良い経験をすると、そのよい影響が子供に遺伝するというのです。

そもそも遺伝とは遺伝子が媒介するもので、
親が個人的に経験したことは子孫に遺伝しないと考えるのが常識です。
もちろん遺伝子コードは変化しないし、変化するには進化レベルの長い時間が必要です。
ただし染色体やDNAは後天的に化学修飾を受けることが知られています。
すると遺伝子の機能発現が変化します。これを「エピジェネティクス」といいます。
いま生命科学界の流行の研究対象です。今回の発見もその研究です。

ネズミを回り車やトンネルの置かれた豊かな環境で育てると、
遊びの無い閑散とした環境で育てたネズミより、
迷路を解く能力(海馬の機能向上)が高くなることが知られています。
海馬の機能はシナプス伝達の増強現象を測定することで評価します。

海馬機能が増強するにはずっと豊かな環境で育てる必要はなく、
生後2~4週間のわずか2週間のみ豊かな環境に入れただけで海馬の機能は十分に向上し、
しかもこの効果はその後一生持続します。ちなみにネズミの生後2~4週間は、
ヒトで言えばおよそ乳幼児期から思春期までの時期に相当すると。

こうして海馬の機能が亢進したネズミから生まれた子供たちもまた、海馬の機能が高いというのです。
子供たち自身は豊かな環境は経験していないにもかかわらず、生まれつき海馬機能が高く、
記憶力も増強されていました。

フェイグ博士の更なる追及では、孫には影響が無く2世代目までに限られていること、
父親だけでは効果が無く、母親だけ豊かな環境で育てると子供の海馬機能が向上するというのです。
これは染色体やDNAへの後天的な化学修飾は、精子ではリセットされるけど、
卵子では子孫に引き継がれると言うエピジェネティクスの知見にも合致します。

すぐにヒトに適用するのは乱暴ですが、おなじ哺乳類としてこのデータを無視もできません。

ここで何を考えるか。ワンオンワンで生涯に女性に産ませる子供が数人のこの時代、
優秀な子孫を残そうとすると、優秀な女性と結婚することが重要となるということです。
また子供が優秀な場合は、自分の遺伝子よりも奥さんのがんばりの方が、
大きく影響してる可能性が高いということです。
オレの遺伝で子供が賢いと豪語してるあなた、
じつは奥さんの影響や育て方の部分が大きいことを、再認識する必要があります。

・三つ子の魂百まで
・三世代で作業着から作業着へ
昔の人は見通してるんですね。


その他の心に残った部分は以下。

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<一夜漬けvs日々の勉強>
ニューヨーク大学のダヴァチ博士の実験。集中学習と分散学習ではどちらが効果的か。
学習直後のテストの結果(60点)は両者に差は無い。
しかし翌日の再テストになると、一夜漬けは前日の3分の1(20点)、
日々の勉強は2分の1(30点)の点数となった。

テストはランダムな単語ペア(魚-針など)を、22歳の男女16名ほどに150個覚えてもらう。
分散は2日に分けて、集中は1日で覚える。勉強時間は同じ。

コツコツ勉強タイプも一夜漬けタイプも、定期テストの結果は同じかもしれないが、
長期的な視点に立てば、脳回路へより強く痕跡を残すのはコツコツ勉強タイプだ。




<催眠術にかかる割合>
催眠術は実際に生じる脳の現象。ただし誰もが催眠にかかるわけではない。
スタンフォード大学のシュピーゲル博士によると、催眠術にかかりやすい人は全体の10%強。
20%は全くかからないという。残りの70%は催眠術師の腕次第とのこと。

かかりやすさには年齢差もあり、12歳以下ではなんと80%以上の子供が催眠にかかる。
子供は前頭葉の働きが不十分なため感受性が高いと言われている。




<記憶は睡眠によって強固になる>
有名なレミニセンス現象。
シカゴ大学のブラウン博士は大学生207名を募ってテレビゲーム(アクション)の成績を測定した。

朝9時に1時間ゲームを訓練させて、12時間後の夜9時にもう一度やらせる。
すると平均スコアは50%に低下する。
その後7時間の睡眠をとらせ、翌朝9時にもう一度ゲームをさせると、
前日の訓練直後の成績に戻っている。これをレミニセンス効果と呼ぶ。

さらに面白いのは訓練を夜9時に1時間させ、そのまま7時間睡眠をとらす。
そして翌朝9時にゲームをさせると成績が低下するどころか20%も向上する。
その12時間後にもう一度やらせても20%向上されたままの成績だった。

確定的な結論は性急かもしれないが、
著者自身は就寝前の1~2時間は仕事に充てるよう普段から気をつけているとのこと。
「就寝前は記憶のゴールデンアワー」だそうです。寝る前は、いい本を読みませんか^^




<著者の「頭が良い」の定義>
「反射が的確であること」と解釈している。その場その場に応じて適切な行動ができるということ。
苦境に立たされても適切な決断で、上手に切り抜けることができる。
コミュニケーションの場では、瞬時の判断で、適切な発言や気遣いができる。

このような適切な行動は、その場の環境と、過去の経験とが融合されて形成される「反射」だ。
だからこそ人の成長は「反射を鍛える」という1点に集約される。
そして反射を的確なものにするには、よい経験をすることしかない。




<アジア人の体温>
欧米人に比べ平均して0.5℃以上も体温が低い。
ネズミでも遺伝的に体温が低い血統は寿命が長いことが知られている。
0.3~0.5℃体温が低いと、同じカロリー摂取量でも、
オスで12%、メスで20%も寿命が延びる。
日本人の長寿も体温と関係があるかもしれない。だけど低体温ゆえ欧米人にくらべて寒がり。




<カロリス(カロリーリストリクション・カロリー摂取減のこと)は長寿命になり記憶力が増える>
摂取カロリーを20~30%減らすと、寿命は延びる。
これは小さな虫から哺乳類に至るまで、生物界にほぼ普遍的に観察されている。

また独ミュンスター大学のフレール博士の実験では、30%オフのカロリスを3ヶ月続けると、
体重は2.3%の減、記憶力(単語テスト)の試験の成績は30%向上していた。




<赤色の効果>
ボクシングの試合は赤コーナーが青コーナーより勝率が高い。
これは赤コーナーにタイトル保持者や経験の長いものが立つから。

英ダーラム大学のヒル博士の調査によると、
オリンピック大会でのボクシングやレスリングなどの試合を徹底的に調べ上げたところ、
やはり赤サイドが青より勝率が10~20%ほど高いことを見出した。
オリンピックの赤と青はランダムに割り当てられ、入場も同時。
赤色のユニフォームやプロテクターを身に着けると、それだけで勝機が高まると言うこと。

ロチェスター大学の心理学者エリオット博士の様々な側面からの色の効果研究によると、
IQテストの表紙を赤色に変えると、平均で20%も点数が低下した。

名古屋大学の八田博士の研究では、パソコンのモニターの枠を赤色にすると、
仕事のパフォーマンスが低下することを報告している。

どうやら赤色は志気を奪ってしまうようだ。
「赤色は相手を無意識のうちに威嚇し、優位に立ちやすい状況をつくるのではないか」
とヒル博士は推測する。

勉強部屋の赤色カーテンは厳禁だという都市伝説は、案外ほんとですね。

一方でコロンビア大学のズー博士の研究では、文章のミス探しや、
説明書の重要事項を記憶するときは、むしろ赤色のほうが成績は向上すると。
博士によれば、心理的に回避的な傾向を生み、警戒心を高めるとのこと。

勝負パンツの赤は、おやめになったほうがよろしいかと。紳士淑女の皆様方。




<その他>
・人口の4%は音痴で遺伝による。
感覚器の機能不全ではなく、脳の中では空間処理能力が低いと音痴になる。
基本的に音楽家は空間処理能力が高い。

・ミシガン大学のローズノウ博士は、ウイスキーのほうが二日酔いがひどいという実験を行なった。
21歳から33歳までの95名での実験で、ウォッカとバーボンを酩酊するまで飲ますと、
バーボンのほうが強い二日酔いを引き起こすことがわかった。
バーボンにはアルコール発酵の過程で生じる副産物が、ウォッカの37倍も含まれている。
博士らはこうした化合物が悪良いの原因ではないかとしている。




ピンクフロイドでブレインダメージ♪名盤ダークサイドオブザムーンから。
There's someone in my head but it's not me.頭の中に、僕じゃない誰かがいる♪

MVはライブで「狂ったやつ(the lunatic)が草の上にいる」と歌い、
ブッシュが草の上にいる映像が流れると、拍手喝采になります。




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