凄い映画を見た。1日たっても興奮がさめやらない。
ラスト10分のシーンが完璧で、もう一度見たいと思うほどです。

撮影はわずか19日間、予算は4億円で撮られた映画。
アカデミー賞は5部門ノミネート。助演男優賞、編集賞、録音賞の3部門を受賞。
世界各地の映画賞でノミネートは150以上、受賞は80を超えたと。

ストーリーは、名門音大に入学した学生ドラマーが、
伝説の鬼教師による、狂気のレッスンに耐えかねる。
挫折を経た後、芸術へ昇華していくという。

まずドラムは主演のマイルズ・テラー本人が叩いてる。
指から吹き出てる血は本物だそうです。

マイルズ・テラーは15歳からロックドラムをはじめ、
この映画のために、撮影の3週間前からトップレベルのスタジオドラマーと特訓。
ラストの鬼気迫る10分は映画史に残るだろうし、
なんでこれで主演男優賞じゃないの?



映像の妙なのか、演奏シーンは圧巻で、とてつもなくうまく見えた。
腕利きドラマーの人から見たら、どんなレベルなんだろう。
素人の僕には音楽チャンネルで見た、アートブレイキー並の衝撃度(言いすぎか)。




スティーブガッドのような味わい、グルーブ感はないけど(ドラム界のスローハンドだと思う)。




思わず買ってしまった映画パンフ。
以下に印象的だった部分を。



・長いワンカットを多用し、
ニーマン(ドラマー)とフレッチャー(鬼教師)を素早くとらえるカメラ移動や、
キャラクターの視線を通した映像、ここぞというときの人物のクローズアップなど、
チャゼルが監督として発揮した技巧が冴えわたっている。

・お気づきだろうか?実は本作「セッション」のすべてのシーンには、マイルズが必ず映っている。
主人公だから当然だと思うかもしれないが、これは作劇上も演出上もかなり極端な手法だ。
そしてそれは「緊張感の持続」において絶大な効果を上げている。

・これは台詞劇ではありません。たとえば英語がわからない字幕なしで観ても、たぶんわかる。
指揮者と演奏者の「演奏」が対話なんです。そこにこの作品の強さがある。
映画を観ている人が感情をのせていく対象が、言葉ではなく、
役者の表情や眼球、汗、音というところが凄い。
もっと言ってしまえば言葉って邪魔だな、とまで思った。
見方を変えればサイレント映画なのかもしれない。チャップリンの「街の灯」のように。
結果的に100年後に残る映画だと思う。チャップリンを引合いに出したのもそう感じたから。



これは個人的な感覚ですが、無駄な部分がひとつもない。
極限までそぎ落としている。
さすがに編集賞をとるだけある。

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最後に監督のデイミアン・チャゼルについて。
ハーバード大の学生時代に脚本&監督作を1本作り話題になる。
その後本作の脚本を書き、短編映画をつくり短編映画賞を受賞し、本作への(長編製作)道を開く。

監督の自伝に近い、自分の経験を元に書いた脚本で、一生に一度撮れる作品です。
以下パンフから監督のインタビュー。85年生まれで撮影時は28歳だったそうです。



『高校のころ、僕はチャーリー・パーカーのような変身を夢見て、
毎日何時間も地下の防音室にこもり、手から血が出るまでドラムを練習した。
僕の夢に拍車をかけたのは、並外れた才能を持つ地元の英雄で、僕の学校の指揮者だった。
彼によって音楽は僕の中で恐怖に結びついた。

彼はニュージャージーの公立校の未熟なバンドを、全米一のジャズバンドに変えた(ダウンビート誌)。
このバンドは2度大統領就任式で演奏し、ニューヨークのJVCジャズフェスの開幕式でも演奏した。

僕はなぜこんなことが起こったのか不思議に思う。
僕のドラマーとしての経験は、国から受けた栄誉と数々の賞で終わった。
でも僕はあの悪夢を(拒食症まで追い込まれた日々)、今でも鮮烈に思い出すことができる。
すべては音楽に仕えるため。

僕にとってあの頃何よりも重要だったのは、僕と教師との関係だった。
あの関係があまりにも緊張に満ち溢れたものだったから、
この作品でその事を掘り下げたいと熱望した。

生徒を偉大なものへと追い込むのが教師の務めなら、どこまでやれば十分なのか?
誰かを偉大にするにはどうすればいいのか?

僕のドラマー時代の感情を表現するために、この映画の中で、演奏のひとつひとつを、
生死を分ける闘いであるかのように撮影したかった。
僕が覚えている細かいところすべてを見せたいと思った。
音楽という芸術に打ち込む努力のすべてを描きたい。

耳栓と折れたスティック、水膨れと切り傷だらけの手、
絶え間なく続く拍子とメトロノームの音、そして汗と疲労感。

チャーリー・パーカーのソロ演奏を聴くたびに、人々は至福の時へと誘われる。
我々がその後何十年も楽しむことができるというだけで、
芸術のためにパーカーが耐えた苦しみのすべては、それだけの価値があったのか?

僕にはわからない。でも僕にとってそれは尋ねる価値のある問いなのだ。
それは音楽を超えて、芸術さえも超えて到達する、非常にシンプルだが、
アメリカの特徴を形成するある概念に関係している。

''いかなる犠牲を払っても偉大であること'' 』



こんなインタビューのあとでは、何を付け足しても陳腐になる。
創造性というのは、こういう作品の事を言うのだと思う。
この映画は、ぜひ映画館の大画面、大音量で観て欲しい。
ぼくが言えるのはそれだけです。



チャーリーパーカーのボックスセット。

ナウズ・ザ・タイム【メンブラン10CDセット】

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Membran
  • 発売日: 2008/04/25
  • メディア: CD